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年神様をお迎えする、お正月の お仕度。

―赤酒で祝う熊本の「お屠蘇」文化と、「注連(しめ)飾り」に込められた祈り―

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一年の始めに邪気を払い、延命長寿を願う「お屠蘇」

お屠蘇(とそ)は、“蘇”(鬼)を“屠(ほふ)る”と書きます。病をもたらす鬼を屠り(葬り)、延命長寿を願うもので、元来、中国では祝いの席で用いられていました。やがて、元旦の朝に、一年の邪気を払い、病気をせず長寿を全うできることを願い飲むようになったのです。唐の時代の総合医学書「外台秘要」にも、正月の風習としての飲むお屠蘇のことが書かれています。その一部には、“身体を温め、風邪や伝染病を防ぐといわれる8種の生薬を刻んで赤い袋に入れ、大晦日に井戸に浸けておき、井戸水を清らかで聖なるものにする。正月早朝、日の出と共に取り出して酒で煎じ、東方を向いて一家で飲む。飲む順番は年齢の小さな子供から年長の者へ…”などとあります。

お屠蘇とは、日本酒(または日本酒と本みりんのブレンド)に5~10種の薬草を調合した「屠蘇延命散(屠蘇散)」を浸して飲むものを指しますが、熊本の多くの家庭ではそのお酒に「赤酒」を使用します。
「赤酒」は熊本伝統のお酒です。江戸時代、肥後細川藩で「御国酒」として保護・推奨され、それ以来、庶民の酒として親しまれ、近年では料理酒としても注目されています。もろみの発酵終了後に “木灰”を加えて保存性を保つ製法から「灰持酒(あくもちざけ)」とも呼ばれ、その特徴に芳醇なコクと甘みがあります。
江戸末期の慶応3年に熊本市南区川尻町で創業し、清酒・焼酎、そして赤酒を生産・出荷している「瑞鷹株式会社」に伺い、代々伝わるお屠蘇の正式な飲み方を教えていただきました。
「まず大晦日の夜、除夜の鐘が鳴り終わる頃に酒器に入れた赤酒に屠蘇散を浸します。好みに応じて引き上げますが、もちろん長時間浸して十分な薬効を楽しむのも構いません。元旦の朝、お屠蘇を器に移し、床の間や家の中のお正月飾りのある一番神聖な場所に置きます。家族や一族が揃った中で、三段に重ね置かれた一番上の小さな杯から年の若い順に飲み、上の者に杯を回します。杯に入ったお屠蘇を三口に分けて飲み、右手親指と人差し指で飲み口を軽くふいて次に回します。最後に最年長者が飲むのは、年の若いもののエネルギーを年長者に与えるという意味合いが含まれています。うちではお屠蘇に、梅花にんじん、たたきごぼう、数の子を添えていましたが、親戚の家では結び昆布やスルメなどを添えていました。こちらは各々の家によって異なるようです」と瑞鷹株式会社の吉村謙太郎さん。
吉村家のお正月では、鏡餅の他、米・橙・のし鮑(あわび)・昆布を盆に盛り、床の間にお供えします。
お正月を迎える時季、瑞鷹ではオリジナルで調合された漢方生薬の屠蘇散を添えて赤酒を販売しています。

 

■取材協力/瑞鷹株式会社TEL096₋357-9671

【写真(左)】
瑞鷹株式会社を営む吉村家が使用している屠蘇器の一つ、錫(すず)の酒器とかわらけの盃を見せていただきました。盃にお屠蘇を注ぐと、七福神の一つであり3種の願いを示す「福禄寿」の文字がくっきりと浮かび上がります。
【写真(右上)】
瑞鷹株式会社の「東肥赤酒」(お正月はオリジナルの屠蘇散を添えて販売)。熊本県内では、山鹿市の千代の園酒造株式会社でも赤酒を製造・販売しています。
【写真(右下)】 吉村家でお正月に床の間に供える飾りもの。白米を盛り、その上に昆布、橙、裏白、のし鮑などを飾ります。

「屠蘇散」には何が入っているの?

お屠蘇は、平安時代に中国から日本に伝わり、天皇四方佯(よもよう)の御儀式の後、お酒にこの屠蘇散を浸して使用したのが始まりと言われています。熊本大学薬学部 薬用植物・生薬学分野准教授である矢原正治さんは、漢方・ハーブのセミナーや薬用生物観察会を行うほか、「お屠蘇のような伝統を大切に伝えていきたい」と、毎年暮れの12月第3月曜日に、屠蘇散の薬草を調合する「屠蘇散作りの会」を行っています。
※写真は、矢原先生が屠蘇散作りの会で使用する7種の薬草【桂皮(シナモン)/山椒(サンショの果皮)/陳皮(ミカンの果皮)/桔梗/浜防風/蒼朮(そうじゅつ)/丁子(クローブ)】です。各々に健胃、身体を温める、解熱などの薬用成分があります。

 

■取材協力/熊本大学薬学部附属薬用資源エコフロンティアセンター長・矢原正治
TEL096₋371₋4381 http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/ 

熊本大学薬学部・矢原准教授が毎年年末に開催する「屠蘇散作りの会」で調合している7種の薬草。
(屠蘇散には粉末を使用します)

収穫を感謝し、新しい年の五穀豊穣を祈る
「注連(しめ)飾り」

もともと注連飾りは、農家の人が無事に収穫を終えたことを神様に感謝し、新しい年の五穀豊穣を祈りつつ作ったもの。正月三が日を共に過ごす年神様を我が家に迎える際の目印であり、年神様を清らかなところでお迎えするためのものです。
注連飾りには、収穫の感謝と願いを込めた「俵」、長寿を祈る「鶴」や「亀」、神様の乗り物であると言われる「馬」、何でも願いをかなえてくるという宝物「宝珠」、農耕の神様を表現する「太陽」「月」など、いろいろなモチーフが織り込まれています。
注連飾りを飾るのは、餅つきを済ませる28日頃。裏白(うらじろ)や橙(だいだい)などの縁起物をつけて家の門や玄関に飾ります。裏白は“うしろ暗きことがない”ことを意味し、橙は“代々の繁栄”、のしは“身代をのす(発展する)”、干し柿は“宝をカキよせる”など語呂が合う縁起のいい付属物をつけます。31日に飾ることは「一夜飾り」といい、神様を穢(けが)すことになります。また、年明け7日には「鬼火焚き」で燃やし、煙とともに神様にお帰りいただきますが、熊本では「どんど焼(どんどや)」の時に燃やし、お送りすることが多いようです。
熊本市中央区大江にある「工藝きくち」の御主人・菊池典男さんは、工芸品を求めて全国を旅するうち、各地の注連飾りの美しさに魅了されたといいます。毎年全国の作り手を訪ね、熊本市中央区大江の店舗で販売する他、12月には熊本県伝統工芸館で「注連飾り展」なども開催しています。(今年、熊本県伝統工芸館の展示販売会は12月23日に終了。その後は熊本市中央区大江4-11-17の店舗で販売)

 

■取材協力/工藝きくちTEL096₋371₋2220

※写真は天草地方の「牛蒡注連(ごぼうじめ)」。床飾りや神棚飾り、玄関飾りとして使われます。天草地域で一年中注連飾りを飾っているのは、かつて「この家は隠れキリシタンではありません」ということをアピールしていた頃の名残りだとも言われています。