#027

雪下に萌黄の芽を探す「小寒」「大寒」の頃。

最も寒いこの時期は、最も春を待ち想う頃です。冬の柚子を使う菊池のお菓子「柚餅子」、小寒末候「雉始鳴(きじはじめてなく)」にちなみ人吉の伝統玩具「きじ馬」、冬に原料を刈り取り作る水俣の「手漉き和紙」の3話をお届けします。

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寒晴に小さな春を想う頃。しかし山里では、早くも雪の下で春の使者「蕗の薹」が顔を覗かせます。
菊池の「柚餅子(ゆべし)」は冬の記憶 “柚子”の味と香りが漂うお菓子。心を込めて丁寧に手作りを続ける、津村さんご夫婦に会いに行きました。
また、人吉では伝統玩具「きじ馬」を伝承する住岡さん一家に、その歴史や意味にまつわる興味深いお話を伺い、人気ブランドとコラボレーションした玩具を見せていただきました。
冬の水俣には、和紙の原料となる楮(こうぞ)の刈り取りを行い、漉いた和紙で卒業証書を作る小学生たちがいます。10年以上その指導を行う金刺(かなざし)さんは、子供たちに何を伝えたいのでしょうか。

もっちり優しく懐かしい
菊池の伝統菓子「柚餅子」
熊本県産の柚子は、初冬に収穫のピークを迎え、冬の終わりまで出荷が続きます。
菊池には、南北朝時代に栄えた菊池一族の兵糧食に起源するといわれる伝統のお菓子「柚餅子(ゆべし)」があり、昔から正月や盆などの行事に各家庭で作られてきました。
昭和40年頃に菊池市隈府に和菓子店を開き、柚餅子を作り続けている「津村友宝堂」を訪ね、作り方を拝見しました。
男の子に贈る縁起物
人吉球磨の伝統玩具「きじ馬」
小寒 末候「雉始鳴(きじはじめてなく)」(1月中旬)は、春を前に雄の雉(きじ)が鳴き始める時期を指します。
人吉球磨地方に伝わる郷土玩具に「きじ馬」があります。球磨郡錦町の「住岡工房」を訪ね、きじ馬と花手箱の形や色に秘められた意味を伺いました。
また、外国のブランドや国内の人気デザイナーとコラボレーションした作品もご紹介します。
原料を刈り取る冬
水俣の手漉き和紙
熊本県伝統工芸品に指定されている水俣市袋の「水俣浮浪雲(はぐれぐも)工房」の和紙。水俣市久木野地区は、50年ほど前まで県内屈指の楮(こうぞ)の産地で、現在は12~1月頃に自生している楮の刈り取りを行っています。
工房を主宰する金刺潤平さんは、10年以上前から水俣市立袋小学校の6年生を対象に、卒業証書に使う和紙作りの指導を行っています。

もっちり優しく懐かしい

菊池の伝統菓子「柚餅子」

古くから、その香りが邪気を祓い、果実も縁起物とされてきた柚子(ゆず)。熊本県産の柚子は、初冬に収穫のピークを迎え、冬の終わりまで出荷が続きます。
江戸時代、熊本藩士によってまとめられた料理書にも「柚餅子(ゆべし)」や「柚べし」という名で製法が記され、県内の柚子の産地で、和菓子や酒肴として受け継がれてきました。材料には柚子・味噌・米粉・砂糖が使われますが、分量や加える調味料は各々異なります。
菊池には、南北朝時代に栄えた菊池一族の兵糧食に起源するといわれる伝統のお菓子「柚餅子」があり、昔から正月や盆、田植えなどの行事の時に各家庭で作られてきました。
昭和40年頃に和菓子店を開き、柚餅子を作り続けている「津村友宝堂」(菊池市隈府)を訪ねました。毎朝4時頃から、店主・津村民彌さんと奥さんの良子さんが一緒に柚餅子を作り始めます。菊池産の玄米を精米して米粉にし、甜菜(てんさい)糖、県産麦味噌を混ぜ、菊池産無農薬柚子の皮をミキサーにかけて砂糖漬けにしたものを加えた生地を、竹の皮に包んで蒸します。「作った翌日が食べ頃。上品に切って食べるより、かぶりついた方が美味しいです(笑)」と良子さん。ほのかな甘さとモチモチとした食感、柚子皮の爽やかな後口で飽きのこない味です。固くなったらさっと電子レンジで温めた後、トースター(又はフライパン)であぶると、ふっくらお餅のような味わいが楽しめます。安心安全な食材を使い、心を込めて作る柚餅子は、朝食やヘルシーなおやつとして子供や女性にもおすすめです。

■津村友宝堂
所在地:菊池郡隈府北原766
問合せ:0968‐25‐2403
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「津村友宝堂」の柚餅子。緑茶はもちろん、爽やかな柚子の風味が紅茶にもよく合う。柚餅子の賞味期間は常温で3日。冷凍すると1ヶ月ほど保存できる。
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【写真(左)】
店で菊池産の玄米を精米して米粉にし、甜菜糖、県産麦味噌を混ぜ、砂糖漬けにした柚子皮を加えて生地を作る。使う素材にこだわり、丁寧に一つひとつ手作りするご主人の津村民彌さん。店の裏にも数本の柚子の木があり、毎年600個ほど実をつけるとか。
【写真(中央)】
生地を筍の皮に包む作業中。奥さんの良子さん曰く、「上品に…じゃなく、かぶりつくと美味しいです。朝食に食べるという人もいますよ」
【写真(右・上、右・下)】
筍の皮に包んだ生地を蒸篭(せいろ)に入れ、40分ほど蒸す。
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固くなったら、電子レンジでさっと温め、トースターかフライパンで少し焼き目をつける。そのまま食べるのとは違う、ふんわりモチモチの食感で美味しい。

男の子に贈る縁起物

人吉球磨の伝統玩具「きじ馬」

小寒 末候「雉始鳴(きじはじめてなく)」(1月中旬)は、春を前に雄の雉(きじ)が鳴き始める時期を指します。
人吉球磨地方に伝わる郷土玩具「きじ馬」。およそ800年前、壇ノ浦の戦いに敗れた平家一族が、逃れた人吉の奥地(大塚地区や木地屋)で都の栄華を偲(しの)びながら作ったのが始まりと言われています。
「住岡工房」(球磨郡錦町)では、大正時代初期に初代の住岡喜太郎氏がきじ馬、花手箱、羽子板を復興。
現在は2代目の忠嘉さんがきじ馬、次男で3代目の孝行さんがきじ馬と花手箱を制作。忠嘉さんの奥さん・るい子さんと長女の久美子さんが絵付けを担当しています。
もともときじ馬は男の子に贈る縁起物。男の子が馬乗りになって遊んだり、家の中を転がすことで、家内の厄を祓い清めるといわれてきました。
「伊勢神宮で20年に一度行われる式年遷宮(しきねんせんぐう)で、御神木を荷車に積んで運ぶ神事があるのですが、その様はきじ馬の姿によく似ています。きじ馬の背に書く“大”の文字にも様々な説があります、京都の大文字焼き(五山の送り火)や、男の子が生まれると額に“大”の字を書いて宮参りをする風習などにも関連するのではといわれています」と孝行さん。また、「きじ馬や花手箱に使われる赤、黄、緑、白、黒という5色は陰陽五行の四季の色にも通じます。きじ馬や花手箱に込められた意味や願いを紐解くと奥が深いんですよ」と久美子さんの目も輝きます。

■住岡工房
所在地:球磨郡錦町西字無田の原104-2
問合せ:0966‐38‐1020
※作品の展示場は人吉市鍛冶屋町15‐2にあります。
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【写真(左)】
男の子の厄を祓う縁起物「きじ馬」。店の開店祝いや新築祝いとして贈る人も多いとか。
【写真(右)】
平成28年、イタリアの玩具メーカー「ロディ」と、きじ馬・花手箱のコラボレーションが実現し、期間限定で販売を行った。今後、伝統と新しいものが融合して生まれる新企画も楽しみ。
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【写真(左)】
若者に支持されている人気デザイナー・たかしまかずあきさん(熊本県出身)のブランド「Né-net」のキャラクター(にゃー)とコラボレーションした、きじ馬と花手箱。
【写真(右)】
モミ、ヒノキ、スギなどで作った箱に描かれている、鮮やかな大輪の椿、黄色の花芯、緑の葉が目をひきつける「花手箱」。「花手箱を見ると元気になる!とお客さんに言っていただくと、私たちの想いが伝わっているんだなと嬉しくなります」と長女の久美子さん。
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【写真(左)】
住岡さん一家。(左から)長女の久美子さん、母のるい子さん、2代目の忠嘉さん、次男で3代目の孝行さん。
【写真(右)】
ヨキという道具で木を切り、きじ馬の形を作る2代目の忠嘉さん。

原料を刈り取る冬

水俣の手漉き和紙

1300年以上の歴史を持つ日本の伝統工芸「和紙」。和紙の原料には、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)などの植物を使用します。
熊本県伝統工芸品に指定されている「水俣浮浪雲(はぐれぐも)工房」(水俣市袋)の和紙。工房を主宰する金刺潤平さんは、色落ちした有明海の海苔、短くて使用できない八代産のい草などを活用したり、い草の特性を生かして開発した草パルプを壁紙として商品化するなど、紙の可能性を追求し続けています。
水俣市久木野地区は、50年ほど前まで県内屈指の楮(こうぞ)の産地でした。現在は自生している楮を12~1月頃に刈り取ります。刈り取った楮は85㎝ほどの長さに切り揃え、蒸して皮を剥(む)き、茶色の鬼皮を削り落として洗い、天日干しをして漂白します。一度乾燥させたものを水で戻し、煮熟(しゃじゅく)してほぐし、トロロアオイなどから採った粘材を加えて漉きます。寒い時期に冷たい水で漉くことで、上質の和紙ができるのです。
金刺さんは、10年以上前から水俣市立袋小学校の6年生とその保護者を対象に、卒業証書に使う和紙作りの指導を行っています。2017年は1月下旬から40名ほどの卒業生が制作に参加。「この体験によって、親子で一緒に地域の里山文化や自然環境を学ぶ良い機会になります」と金刺さん。子供たちはこの体験を通して触れた地域の文化、風景、手触り、匂い、などの記憶を胸に、学び舎から巣立っていきます。

■水俣浮浪雲工房
所在地:水俣市袋42
問合せ:TEL・FAX 0966‐63‐4140
URL:http://www.hagure.org/
URL:http://haguregumo-kobo.com/
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【写真(左)】
「水俣浮浪雲工房」を主宰する金刺潤平さん。手にしているのが、和紙の原料となる楮(こうぞ)。毎年12月~1月、水俣市久木野地区で自生している楮の刈り取りを行う。
【写真(右)】
刈り取った楮の長さを揃え、蒸して柔らかくする。
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【写真(左)】
和紙には楮の皮の部分を使用。蒸した後に皮を剥ぎ、茶色い部分を削り取る作業の様子。
【写真(右)】
天日で漂白した後、乾燥したものを水に浸けて戻す。その後、煮熟(しゃじゅく)してほぐし、トロロアオイなどから採った粘材を加えて漉く。
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【写真(左)】
材料に三椏(みつまた)や竹を使い、茜で染めた和紙(ポストカード)。しっかりと厚みがあるのが特徴。絵は「型絵染」という古くから伝わる技法で、刃物で渋紙に切り抜きし、顔彩で色付けをして描く。
【写真(右)】
「紙布(しふ)」。杉皮で染めた木綿を縦糸に使い、横糸に楮紙を撚(よ)って糸にしたものと、草木染の手紡ぎ木綿糸を横糸に織り込んだもの。