#021

収穫を感謝し、伝統芸能に親しむ「秋分」と「寒露」の頃。

ようやく熊本にも晩秋の風が吹き始めました。実りの秋を味わい、伝統芸能を愉しむ頃。 300年の歴史を持つ「清和の薪文楽」、旬の味覚をより美味しくいただく「秋野菜のお漬物」、近年注目を集める「天草の高浜ぶどう」の話題をお届けします。

暑さ寒さも彼岸まで。昼と夜の長さが同じになる「秋分」を境に、これからだんだん日が短くなっていきます。すっかり秋らしくなり、次々に登場する野菜、果物、魚など旬の味覚が楽しめるこの時期、空には鰯雲が広がり、草原にはススキが揺れ、木々の葉が黄色に色づきます。
そして、続く「寒露」は、露が冷たく感じられる頃。秋も深まり、そろそろ冬支度を始める時期になります。
人参、大根、ごぼうなど、これから美味しくなる旬の秋野菜を使った「お漬物」、秋の収穫を感謝する奉納芝居「清和の薪文楽」、11月のボジョレーヌーボーの解禁を前に、県内で注目されているブドウの一つ「高浜ぶどう」のお話をお届けします。

収穫を感謝する奉納芝居
清和の薪文楽
神社等に収穫した農作物を供え、神様に感謝する「秋祭り」が各地で行われる時期。上益城郡山都町大平の「大川阿蘇神社」の境内に残される農村舞台では、春になると神様に豊作を祈願し、秋は収穫を感謝する意味の「願成(がんじょう)」の奉納芝居がおよそ300年前から行われてきました。年に一度開催される「薪(たきぎ)文楽」をご紹介します。
いけ花の教授に習う
秋野菜のお漬物
野の草花を取り入れることによって、生活の中で自然や季節を感じ、楽しむことを原点とした流派「いけばな草心(そうしん)流」。その教授である岡村草花(そうか)さんは、知る人ぞ知る、お漬物の名人です。今回岡村さんに、秋から冬にかけてに旬を迎える県産野菜を使った、簡単で美味しいお漬物の作り方を教えていただきました。
紀行文「五足の靴」にも
記されている
天草の高浜ぶどう
今年のボジョレーヌーボーの解禁日は11月19日(木)。中秋の名月のお供えものとしては月見団子が良く知られていますが、ブドウをはじめとする蔓で育つ植物も、月とのつながりを強くする縁起の良いものとされてきました。県産のブドウの中から、近年注目を集めている天草町高浜地区の「高浜ぶどう」についてご紹介します。

収穫を感謝する奉納芝居

清和の薪(たきぎ)文楽

各地で秋祭りが行われる季節です。秋に行われる祭りは神社等に収穫した農作物を供え、その土地を守る神様に感謝するもので、神楽や田楽等の神事芸能が行われます。
「清和文楽」は、江戸時代(嘉永年間)にこの地(旧・清和村)を訪れた淡路の人形一座から浄瑠璃好きの村人に伝授されたことが始まりといわれ、現在熊本県に残る唯一の人形浄瑠璃芝居です。人形浄瑠璃(文楽)は、日本を代表する伝統芸能の一つで、「太夫(たゆう)」の語りと、「三味線」の演奏、そして「人形遣い」が一帯となった総合芸術です。
上益城郡山都町大平にある「清和文楽館」のすぐ前には「大川阿蘇神社」があり、その境内には2005年に国有形文化財に指定された農村舞台が残されています。神社の境内では宮下文化が伝承され、農村舞台では、春になると神様に豊作を祈願し、秋は収穫を感謝する意味の「願成(がんじょう)」の奉納芝居がおよそ300年前から行われています。その時期になると農家の人々はその時期に地元で採れる一番美味しいものを食べながら、奉納芝居を楽しんできたのです。
稲刈りが行われる最中の、冷たい風が吹き始める晩秋の夜。この頃、清和文楽館では、年に一度の「薪文楽」が行われます。舞台では「寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)」等の演目の他、清和中学校3年生が人形の所作を踊る「清和文楽所作踊り」を予定。幻想的な雰囲気の中、奉納芝居と十人重箱弁当を楽しむことができます。

■薪文楽
開催日:平成27年10月10日(土)
問合せ・申し込み:清和文楽館 TEL0967‐82‐3001
料金:1名4,800円(重箱弁当付き)
※定員200名に達し次第受付を終了します。 ※雨天の場合は清和文楽館で開催します。
(清和文楽館ホームページ)
http://seiwabunraku.hinokuni-net.jp/
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【写真(上、下・左)】
かがり火がパチパチとはぜる音を聞きながら、ゆっくり文楽を観賞することができる。
【写真(下・右)】
昔から、十人分のお弁当が入る「十人重箱弁当」に、里芋やこんにゃくを使ったお煮しめ、おにぎり等を味わいながら、人々は奉納芝居を心ゆくまで楽しんだ。

※写真は全て「清和文楽館」様よりお借りしました。
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【写真(左)】
「寿式三番叟」の模様。
【写真(右)】
「奉納芝居が行われる頃、春はまだ苗を植える時期であり、秋は稲刈りの真っ最中だったのですが、当時の人々は農休日の娯楽として奉納芝居を見ながら美味しいものを食べて“さぁ、明日からまた農作業を頑張ろう”と思っていたのではないでしょうか」と「一般財団法人 清和文楽の里協会 清和文楽館」の東美香さん。

いけ花の教授に習う

秋野菜のお漬物

いけ花に野の草花を取り入れることによって、生活の中で自然や季節を感じ、楽しむことを原点とした流派「野の花をいける 草心流」。その教授である岡村草花(そうか)さんは、30年ほど前、初代家元の板垣草心氏のいけ花に出合い、「人も花もありのままが美しい」という家元の言葉とその花の姿の美しさに魅せられ、草心流を学び始めました。
岡村さんは、知る人ぞ知る、旬の野菜を使ったお漬物の名人。秋の草花が美しく咲く岡村さんのご自宅を訪ね、季節の草花のお話を伺いながら、簡単にできるお漬物の作り方を教えていただきました。秋から冬にかけて、新生姜、水田ごぼう、人参、大根など旬を迎える熊本県産野菜がより美味しく味わえます。

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【写真(器の右端)】
岡村さんが春に摘んだわらびを使って作った「わらびのピクルス」。わらびに重曹を振り、熱湯を注いで一晩置き、洗って水気を拭く。鍋にわらびが浸るくらいの量の酢を入れ、砂糖を好みで加えて沸騰させないように溶かし、薄口醤油少々を注ぎ、冷めたらわらびに注いで一晩漬ける。シャキシャキと粘りの食感が絶品で「来年の春はぜひ作りたい!」と思う美味しさ。
【写真(器の中央)】
毎年秋になると東陽町に出かけて10㎏ほどの新生姜を購入し、塩漬けして水気を拭いたものを味噌・黄ザラメ(砂糖)に半年ほど漬けて寝かせて作るという絶品の「生姜漬け」。
※器は上益城郡御船町「一道窯(いちどうかま)」の髙田一道(かずみち)さんの作品です。(岡村さん所有)
人参・きゅうり・大根の味噌漬け

【材料】
・人参、きゅうり、大根…お好みの量
・市販の味噌…材料が浸かる程度の量

作り方
市販の田舎味噌をタッパーに入れて味噌床を作る。
①に皮をむいた野菜(きゅうりは一部をむく)を漬ける。
7時間程度漬けたら取り出して、水で洗い、水気を拭いて食べやすい大きさに切る。
新生姜の甘酢漬け

【材料】
・新生姜…お好みの量
・酢…生姜が浸かる程度の量
・塩…適量
・グラニュー糖…適量

作り方
新生姜は皮をむき、ブツ切り(大きさは好みで調整)にして塩をまぶし、5分ほど置く。
①に熱湯をかけ、水気を拭き、ガラス瓶などに入れる。
鍋に生姜が浸るくらいの分量の酢とグラニュー糖(量は好みで調整)を加え、沸騰させないようにグラニュー糖を溶かし、冷ます。
ガラス瓶に入れた新生姜の上から冷ました液を注ぎ、一晩漬ける。
水田ごぼうの甘酢漬け

【材料】
・水田ごぼう…お好みの量
・酢…生姜が浸かる程度の量
・グラニュー糖…適量
・薄口醤油…適量

作り方
ごぼうを5㎝ほどの長さに切り、30分ほど酢水にさらし、熱湯で固めに茹でる。
鍋にごぼうが浸るくらいの量の酢を入れ、薄口醤油少々とグラニュー糖(量は好みで調整)を加えて沸騰させないようにグラニュー糖を溶かす。固めに茹でたごぼうを加え、液に漬けたまま冷ます。
※そのままはもちろん、千切にして白和えの具にしたり、人参やえびを加えてかき揚げにしても美味しい。
※水田ごぼうは菊池エリアで生産されているもので、春・冬に旬を迎えます。
※器は熊本市出身で現在佐賀県北山に「北山窯」を設ける陶芸家・小川哲男さんの作品です。(岡村さん所有)
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【写真(左)】
「ニガゴリ(ゴーヤ)の甘酢漬け」。薄切りにしたニガゴリをビニール袋に入れ行き渡るくらいの分量の酢と砂糖少々をまぶし、一晩置く。削り節をまぶしていただく。
※器は小川哲男さんの作品です。(岡村さん所有)
【写真(右)】
旬の野菜を使ったお漬物が常に10種程度あるという岡村さん。熊本県内外の陶芸家、木工作家の方々の個展等で、作品とコラボレーションしたいけ花を依頼されることも多く、熊本県伝統工芸館で平成27年10月20日~25日に開催される「一道窯 作陶展2015」、10月27日~11月1日に開催される「堀絹子染織45年展/真弓工房 手織教室染織展」でも岡村さんの挿花を見ることができる。
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【写真(左)】
岡村さんが木工の花器(岡村さんが生まれ育った鹿児島県川内市の作家さんによるもの)にいけた、サオトメバナ、ミソハギ、ノスゲ、センニチソウ。
【写真(右)】
「野の花の原種は、山で見るもの」と岡村さん。岡村さんは、子供の頃、四季折々の自然風景と自生する花や植物に触れて育ちました。草心流では、阿蘇郡南阿蘇村の「草心流野草園」で育てた草花をいけ花に使用している。阿蘇・九重連山は日本有数のスミレの生息地。スミレの魅力にひかれ、スミレのことを学んだ岡村さんは、ご自宅の庭で交配種のスミレを大切に育てている。毎年3月下旬~4月上旬にかけて、そのスミレが花をさかせるとか。

紀行文「五足の靴」にも記されている

天草の高浜ぶどう

中秋の名月には、お月見団子の他に、実りへの感謝をこめて、旬の野菜や果物をお供えするという慣わしがあります。中でも蔓で育つ植物は、月とのつながりを強くする縁起の良いお供え物として知られ、夏から秋にかけて旬を迎えるブドウもその一つです。
県内各地で栽培されるブドウの中でも近年、注目を集めているのが天草市天草町の「高浜ぶどう」。旧高浜村(現在の高浜地区)では明治12年頃から、「高浜ぶどう」の栽培が始まりました。高浜の砂地の土壌がブドウ栽培に適していたこともあり、明治の終わり頃には諏訪や元向、中向、宮の前集落の多くの家々の庭先でブドウが青々とした葉を茂らせ、涼しい木陰を作っていたといわれています。
その様子は1907(明治40)年の7月下旬から8月末にかけ、パアテルさんこと、ルドヴィコ・ガルニエ神父に会うため、九州を訪れた「五足の靴」一行(北原白秋、与謝野鉄幹、木下杢太郎、吉井勇、平野万里)の紀行文に記されています。

「高浜の町は葡萄に掩(おお)はれて居る、家毎に棚がある、棚なき家は屋根に匍(は)わす、それを見て南の海の島らしい感じがした」
(紀行文「五足の靴」より)

大正、昭和の戦時中、ブドウは贅沢品といわれて芋などの作物に転作を余儀なくされたり、あるいはブドウの病気や天候変化の影響を受けるなどし、いつしか高浜ブドウは1本を残すのみとなっていました。
「文豪たちを魅了したかつての高浜の風景をもう一度、よみがえらせたい」
そんな思いから高浜地区振興会では2009年に「にぎわい創出事業」を立ち上げ、その推進役として「ぶどう班」を結成しました。同地区の宮口光敏さん宅に残る原木から挿し木という形で苗を育成。天草市商工会や地域住民らの協力のもと、苗の配布や定期的な勉強会を行うなどしながら「高浜ぶどう」の復活に取り組んでいます。
現在は、町内12軒が栽培を始めており、今年はそのうち4カ所のブドウ棚で収穫会が行われました。今年の収穫量は約110キロ。緑色〜うすい赤紫色をした「高浜ぶどう」は甲州種で、際立つ酸味が特長です。すっきりとした味わいを生かし、天草市商工会では昨年に引き続きワインを試作。今年は白ワイン20本とスパークリングワイン30本に加え、同振興会の「ふるさと納税」のお礼品として50本の白ワインが製造される予定です。
「今後は地元の菓子職人らとタッグを組んで、高浜ぶどうを使ったスイーツなども開発したい」と、同商工会天草支所長の林田さん。涼やかなブドウ棚の風景が広がるとともに、ブドウの特産品が生まれる日も近そうです。

※苗の配布は、天草町内に限られています。
※ワインは試作のため、今年度の販売予定はありません。
※ふるさと納税お礼品については、高浜地区振興会にお問い合わせください。
高浜地区振興会 TEL.0969-42-1125

■天草市商工会 軒先ぶどうプロジェクト
http://project01tbudou.kataranna.com/
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【写真(左)】
8月29日の収穫会の模様。
【写真(右)】
今年は約110㎏の高浜ぶどうが収穫された。
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【写真(左)】
高浜地区振興会ぶどう班の皆さん
【写真(右)】
五足の靴の一行が高浜を訪れたのは1970年8月9日。
※写真は今年の同時期の高浜ぶどうの様子です。

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