#023

冬支度をしながら、師走を想う「小雪」と「大雪」の頃。

寒さが深まり、少しずつ師走の慌ただしさを身近に感じ始める頃。
この時期に植え付けを行う八代の「いぐさ」、収穫を行う水俣の「櫨(はぜ)の実」、天草の伝統食「こっぱ」の話題をお届けします。

日ごとに寒さが増す「小雪」から初雪の便りが届く「大雪」へと、少しずつ冬が深まる頃。
本格的な冬支度を始めつつ、年賀状やクリスマスなど年末年始の計画を慌ただしく進める時期です。
あまり知られていませんが、いぐさの植え付けや、櫨(はぜ)の実の収穫もこの時期に行われています。無農薬栽培いぐさに関わる新たな取組みや、櫨の実から作られる和ろうそく、天草ではおなじみのこっぱについてご紹介します。

新商品開発やデザインも進行中

八代産「いぐさ」の植え付け

八代のいぐさ栽培の歴史は今から500年以上前、現在の八代市千丁町太牟田の上土(あげつち)城主・岩崎主馬守忠久(いわさきしゅめのかみただひさ)公が、いぐさの栽培を奨励したことに始まります。その後、「いぐさ」の栽培は八代地方を中心に発展してきました。
いぐさは稲のように種を蒔くのではなく、苗を育て、株分けして増やしながら約1年半かけて育成し、収穫。苗床田で育てたいぐさは、小分けして11月~12月頃に水田に植え付けを行います。翌年の4月~6月頃、いぐさの成長の促進と倒草防止のための「先刈り」と「網張り」を行い、7月頃に収穫の時期を迎えます。
いぐさの断面はスポンジのような構造になっていて、保温性・断熱性に優れています。寝ござ、座布団など夏のイメージが強いいぐさですが、中に含まれた空気が保温の役割を果たし、羽布団のように適度な温度を保つなど、実は寒い冬の時期にも適しています。
八代市鏡町で18年前から無農薬のいぐさ栽培を手掛ける、山本一(はじめ)さんを訪ねました。八代では、食物繊維、ポリフェノール、ビタミン、ミネラル等を豊富に含むいぐさ粉末を販売したり、健康を重視する住宅メーカーに畳表を卸すなど、無農薬いぐさをテーマにした熊本県内の業者11名で構成する「いやしの会」があり、山本さんもその一員として勉強会や活動に参加しています。現在、「いやしの会」では、この無農薬いぐさを天然染料で染色したり、若い女性や外国人にも好まれるデザインを考えるなど、これからの時代の新しいいぐさ事業に取り組んでいます。

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【写真(上)】
無農薬栽培いぐさの栽培や卸などを手掛ける「いやしの会」と熊本県農業研究センターい業研究所が連携して、藍、茜など、天然の染料で染色するいぐさを開発している。
【写真(下・左、下・右)】
若い女性やファミリー、外国人などに、畳の機能性と無農薬栽培いぐさの安全性をアピールし、かつ「生活に取り入れたくなる」デザインを研究中。
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【写真(左)】
郷土玩具として作られ親しまれてきた「いぐさ手まり」などの工芸品もある。
【写真(右)】
18年間、無農薬いぐさの栽培に携わってきた、八代市鏡町で農業を営む山本一さん(奥)と、息子の山本一友さん(手前)。2015年は11月19日にいぐさの植え付けを行った。
■熊本県農業研究センター い業研究所/フードバレー アグリビジネスセンター)
所在地:八代市鏡町鏡村363
TEL:0965-52-0372
■いやしの会
問合せ:イナダ有限会社(事務局)
TEL:0965-52-0656

初冬から晩冬にかけて収穫

水俣特産「櫨(はぜ)」の実

水俣市月浦(つきのうら)とその周辺地区は、江戸時代から「侍台地(さむらいだいち)」と呼ばれていました。宝暦の時代、肥後細川藩の推奨により熊本県の中でも特にこの地域に多く櫨(はぜ)の木が植えられました。
櫨の木の実から採る蝋(ろう)は水俣市の特産品となり、現在熊本県の95%がこの地で収穫されています。そしてこの地域で採れる木ろうは全国で収穫量1位を誇ります。蝋は和ろうそくだけでなく、口紅などの化粧品やクレヨンなどの文具、そしてお相撲さんのびん付油にも使われ、海外にも輸出されています。
櫨の木の歴史や加工手段などについて学び、ろうそく作りの体験もできる「侍街道はぜのき館」(水俣市月浦)を訪ねました。毎年3月になるとこの地域の櫨の木には緑の新芽が出始め、4月には小さい可憐な黄色い花が咲きます。その後、花は小さな実になり、11月から翌年2月にかけて収穫の時期を迎えます。実を集め、溶剤を使って蝋を抽出。熱して液状になった蝋を型に注ぎ入れ、芯には、和紙にいぐさの繊維を巻いたものを使用して和ろうそくを作ります。「和ろうそくは天然の木ろうで作っているため、石油由来のろうと比べて煤(すす)が出にくく、有害な物質が発生しないといわれています。また、芯が太くてしっかりしているためか、炎が美しく、眺めていると心が和みます」と「侍街道はぜのき館」館長・緒方新一郎さんは言います。
春は新芽の緑と可憐な花が咲き、秋は美しく紅葉・黄葉する櫨の木。「はぜのき館」から徒歩10分ほどの場所には260年前に植樹された日本で一番古く大きい(幹回り4m、高さ12m)櫨の木も現存しています。

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【写真(左)】
和ろうそくの炎は、なんともいえない温かみがあり、眺めていると心が落ち着く。
【写真(上・右、下・右)】
和ろうそくの芯には、和紙にいぐさの繊維を巻いたものが使用されている。
「はぜのき館」館長・緒方新一郎さんと、奥さんのすみ子さん。緒方館長が手にしているのは、和ろうそくの芯の和紙に巻くいぐさ。
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木型に木ろうを流し込んで作る和ろうそく。冷めて固まってから取り出して形を整える。真ん中がくびれた形のものを「いかり型」と呼ぶ。
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紅葉・黄葉が残る櫨の木と収穫前の実。櫨は100種ほどあり、水俣では主に昭和福ハゼ、伊吉(いきち)ハゼ、葡萄ハゼが栽培されている。実の大きさは小豆程度から大豆程度まで品種によって異なる。
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【写真(左)】
以前の和ろうそくには、直接絵を描かれているものもあったが、かなり手間がかかる作業だったとか。
【写真(右)】
櫨の倒木の枝などを使用して染めた布は、温かみのあるたんぽぽ色が特徴。
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■侍街道はぜのき館
所在地:水俣市月浦453₋3
TEL:0966-62-2180
休:月曜日

空っ風でおいしさ長持ち

天草伝統の保存食「こっぱ」

からりと晴れた冬のはじめ。天草では、サツマイモ(天草ではカライモ)の収穫とともに、北風を利用した保存食作りが始まります。「干しこっぱ」と「こっぱ餅」です。
「こっぱ」とは、サツマイモ(天草ではカライモと呼びます)を輪切りにして茹で、乾燥させた保存食のこと。空っ風で水分を吹き飛ばすことによって保存性が高まるだけでなく、甘みが凝縮してさらにおいしくなります。輪切りにしたサツマイモの真ん中に穴を開け、藁に通して茹で上げ、軒先や縁側に吊して干すのが従来の作りかた。軒下にぶら下がる「こっぱ」は天草に冬の訪れを告げるものでもありました。
干した「こっぱ」をもち米と一緒に蒸し、砂糖や水飴などの甘みを加えて搗(つ)いた「こっぱ餅」は、天草の特産品のひとつ。お米がまだ十分にとれなかった時代、豊富にとれたサツマイモを混ぜ込むことでカサ増しして、保存食にしていたという説もあるそうです。
ちなみに、生のサツマイモを蒸かして餅に混ぜ込んだ「ねったぼ」や、棒状に切ってかき揚げ風に仕立てた「がねあげ」、サツマイモの茎を使ったキンピラなど、天草ではサツマイモを使った郷土料理が多く見られます。こっぱ餅は、現在、天草各所でお土産ものとして販売されています。天草へお出かけの際は是非、地域の人に声をかけ、「こっぱ」や「こっぱ餅」を探してみてください。ガイドブックには載っていない、天草の美味に出合えるかもしれません。

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【写真(上)】
あぶった「こっぱ餅」は、自然の甘味が優しい素朴な味わい。
【写真(下・左)】
サツマイモを輪切りにして茹で、乾燥させる「干こっぱ」は一つひとつ手作業で作られている。
【写真(下・右)】
干しこっぱの風景。(2015年11月20日撮影)

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