「人にも環境にも優しい」をモットーに 植物の持つ美や力を精一杯引き出す
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最も寒いこの時期は、最も春を待ち想う頃です。冬の柚子を使う菊池のお菓子「柚餅子」、小寒末候「雉始鳴(きじはじめてなく)」にちなみ人吉の伝統玩具「きじ馬」、冬に原料を刈り取り作る水俣の「手漉き和紙」の3話をお届けします。
寒晴に小さな春を想う頃。しかし山里では、早くも雪の下で春の使者「蕗の薹」が顔を覗かせます。
菊池の「柚餅子(ゆべし)」は冬の記憶 “柚子”の味と香りが漂うお菓子。心を込めて丁寧に手作りを続ける、津村さんご夫婦に会いに行きました。
また、人吉では伝統玩具「きじ馬」を伝承する住岡さん一家に、その歴史や意味にまつわる興味深いお話を伺い、人気ブランドとコラボレーションした玩具を見せていただきました。
冬の水俣には、和紙の原料となる楮(こうぞ)の刈り取りを行い、漉いた和紙で卒業証書を作る小学生たちがいます。10年以上その指導を行う金刺(かなざし)さんは、子供たちに何を伝えたいのでしょうか。
古くから、その香りが邪気を祓い、果実も縁起物とされてきた柚子(ゆず)。熊本県産の柚子は、初冬に収穫のピークを迎え、冬の終わりまで出荷が続きます。
江戸時代、熊本藩士によってまとめられた料理書にも「柚餅子(ゆべし)」や「柚べし」という名で製法が記され、県内の柚子の産地で、和菓子や酒肴として受け継がれてきました。材料には柚子・味噌・米粉・砂糖が使われますが、分量や加える調味料は各々異なります。
菊池には、南北朝時代に栄えた菊池一族の兵糧食に起源するといわれる伝統のお菓子「柚餅子」があり、昔から正月や盆、田植えなどの行事の時に各家庭で作られてきました。
昭和40年頃に和菓子店を開き、柚餅子を作り続けている「津村友宝堂」(菊池市隈府)を訪ねました。毎朝4時頃から、店主・津村民彌さんと奥さんの良子さんが一緒に柚餅子を作り始めます。菊池産の玄米を精米して米粉にし、甜菜(てんさい)糖、県産麦味噌を混ぜ、菊池産無農薬柚子の皮をミキサーにかけて砂糖漬けにしたものを加えた生地を、竹の皮に包んで蒸します。「作った翌日が食べ頃。上品に切って食べるより、かぶりついた方が美味しいです(笑)」と良子さん。ほのかな甘さとモチモチとした食感、柚子皮の爽やかな後口で飽きのこない味です。固くなったらさっと電子レンジで温めた後、トースター(又はフライパン)であぶると、ふっくらお餅のような味わいが楽しめます。安心安全な食材を使い、心を込めて作る柚餅子は、朝食やヘルシーなおやつとして子供や女性にもおすすめです。
小寒 末候「雉始鳴(きじはじめてなく)」(1月中旬)は、春を前に雄の雉(きじ)が鳴き始める時期を指します。
人吉球磨地方に伝わる郷土玩具「きじ馬」。およそ800年前、壇ノ浦の戦いに敗れた平家一族が、逃れた人吉の奥地(大塚地区や木地屋)で都の栄華を偲(しの)びながら作ったのが始まりと言われています。
「住岡工房」(球磨郡錦町)では、大正時代初期に初代の住岡喜太郎氏がきじ馬、花手箱、羽子板を復興。
現在は2代目の忠嘉さんがきじ馬、次男で3代目の孝行さんがきじ馬と花手箱を制作。忠嘉さんの奥さん・るい子さんと長女の久美子さんが絵付けを担当しています。
もともときじ馬は男の子に贈る縁起物。男の子が馬乗りになって遊んだり、家の中を転がすことで、家内の厄を祓い清めるといわれてきました。
「伊勢神宮で20年に一度行われる式年遷宮(しきねんせんぐう)で、御神木を荷車に積んで運ぶ神事があるのですが、その様はきじ馬の姿によく似ています。きじ馬の背に書く“大”の文字にも様々な説があります、京都の大文字焼き(五山の送り火)や、男の子が生まれると額に“大”の字を書いて宮参りをする風習などにも関連するのではといわれています」と孝行さん。また、「きじ馬や花手箱に使われる赤、黄、緑、白、黒という5色は陰陽五行の四季の色にも通じます。きじ馬や花手箱に込められた意味や願いを紐解くと奥が深いんですよ」と久美子さんの目も輝きます。
1300年以上の歴史を持つ日本の伝統工芸「和紙」。和紙の原料には、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)などの植物を使用します。
熊本県伝統工芸品に指定されている「水俣浮浪雲(はぐれぐも)工房」(水俣市袋)の和紙。工房を主宰する金刺潤平さんは、色落ちした有明海の海苔、短くて使用できない八代産のい草などを活用したり、い草の特性を生かして開発した草パルプを壁紙として商品化するなど、紙の可能性を追求し続けています。
水俣市久木野地区は、50年ほど前まで県内屈指の楮(こうぞ)の産地でした。現在は自生している楮を12~1月頃に刈り取ります。刈り取った楮は85㎝ほどの長さに切り揃え、蒸して皮を剥(む)き、茶色の鬼皮を削り落として洗い、天日干しをして漂白します。一度乾燥させたものを水で戻し、煮熟(しゃじゅく)してほぐし、トロロアオイなどから採った粘材を加えて漉きます。寒い時期に冷たい水で漉くことで、上質の和紙ができるのです。
金刺さんは、10年以上前から水俣市立袋小学校の6年生とその保護者を対象に、卒業証書に使う和紙作りの指導を行っています。2017年は1月下旬から40名ほどの卒業生が制作に参加。「この体験によって、親子で一緒に地域の里山文化や自然環境を学ぶ良い機会になります」と金刺さん。子供たちはこの体験を通して触れた地域の文化、風景、手触り、匂い、などの記憶を胸に、学び舎から巣立っていきます。
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