special interview

vol7

山村酒造合名会社 社長

山村唯夫さん

shadow

PROFILE

山村唯夫 [やまむら ただお]

1953年、阿蘇郡高森町出身。マリスト学園高校、立教大学法学部卒。
大学卒業後、キリン・シーグラム株式会社に4年間勤務し帰熊。
1979年に山村酒造に入社し、2005年に社長に就任。
ほぼ毎日更新している自身のブログで、酒造りの様子、行事、酒蔵の敷地内に咲く季節の花や植物などを詳しく紹介している。

■「れいざん・社長Blog」 http://www.reizan.com/

※山村唯夫さん:以下 山村、くまもと手しごと研究所:以下 事務局

今年も酒造りがうまくいきますように。
祈り、願う「祈醸祭」から酒造りが始まります。

事務局:
酒蔵の一年と主な行事について教えてください。
山村:
5月に植えた酒米が夏に実り、10月に収穫の時期を迎えます。9月には酒造りを前に道具を点検する「秋洗い」という大切な行事があります。道具のカビ、錆び、汚れをきれいに落として10月からの酒造りに備えるのです。
10月には「祈醸祭(きじょうさい)」を行い、今年の酒造りがうまくいくように祈り、願います。ここから酒造りが始まります。
11月から4月にかけて新酒が誕生します。12月に最初の新酒の瓶詰めが終わると、そのことを知らせる新しい「杉玉」を蔵の軒先に付け替えます。杉玉は酒林(さかばやし)とも言われる、球体の竹籠に杉の葉をぎっしりと挿し込み、丸く剪定したものです。直径90㎝ほどの杉玉を作るために軽トラック1台ほどの杉の葉を使い、杜氏(とうじ)さんが仕込みの合間に作ります。そして赤茶色になった昨年の杉玉は、1月に地域で行われる「どんどや」の火種として使います。
仕込みを始めることを「甑(こしき)を立てる」と言います。甑とは、酒米を蒸す仕掛(蒸籠:せいろ)のことで、酒造りは米を蒸すことから始まるため、このように言います。そして春に酒の仕込みが終わることを「甑倒し」と言います。4月に「皆造(かいぞう)」(酒の搾り)を行い、4月末に酒造りが終わります。5月に「火入れ」(熱殺菌)をし、7月に酒の熟成度合を確かめる「初呑切(はつのみきり)」を行い、重陽の節句(9月9日)を過ぎた頃、秋あがりの酒を出荷します。
2014年は例年よりやや遅れて12月12日に新しい杉玉が付け替えられた。この杉玉が青いうちはまだ燗酒にはせずそのままで味わう。杉玉が赤くなる頃には酒が熟成し、燗酒に向く時期になったことを教えてくれる。
※画像は山村酒造様からお借りしました。
「今年も良い酒ができました」と、本年度初の新酒を手にする「山村酒造」社長の山村唯夫さん。
阿蘇高森町では3月第3日曜日に山村酒造の新酒と阿蘇の郷土料理を味わう会が開催され、5,000人ほどが搾りたての新酒を楽しむ。
※画像は山村酒造様からお借りしました。

昔の人は八百万(やおよろず)の存在を目に触れるところに置き、
神の目を感じながら自らを戒めてきました。

事務局:
酒造りを始める前に行う「祈醸祭(きじょうさい)」とはどのようなものですか。
山村:
萬延元年(1890)に建てられた「萬延蔵」の2階には醸造祖神「松尾大神(松尾さん)」が鎮座しておられ、酒造時期の始まりには、高森阿蘇神社宮司が出仕され修祓を行います。杜氏、酒造スタッフ(倉子=蔵男)とともに、「松尾大神(まつおさん)」、「製麹室(室:むろ)」、「蒸米室(釜屋:かまや)」、「上槽室(槽場:ふなば)」「恵比寿(えべっさん)」を回り、神事を執り行います。微生物が「うま酒」を醸してくださるよう、神に祈願するのです。
昔の人は八百万(やおよろず)の存在を目に触れるところに置き、神の目を感じながら自らを戒めてきました。うちの蔵にもえべっさん(恵比寿さん)、荒神さん、お稲荷さん、まつおさん、蔵内の槽場(ふなば)などに神様を祀っています。昔からその社(やしろ)を見るたびに、緊張感や善良な気持ちを喚起してきたのではないかと思います。
祭りはイベントではなくセレモニーですね。点検やチェックのような意味で必要だったのではないでしょうか。また、それを行うことで心の緩み、油断、おごりなどをリセットしていたのだと思います。

省略ができない「酒造り」。
人間の仕事は、原材料を合わせ、微生物が馴染むのを待つこと。

事務局:
酒造りの魅力はどんなところにあるのでしょうか。
山村:
酒造りは省略ができないところでしょうか。酒造りでは「三段仕込(さんだんじこみ)」と呼ぶ、4日間かけて仕込みを行う手法をとります。1日目は原材料を1/4ほど入れる「初添え(はつぞえ)」。2日目は何もしない「踊り」。そして3日目の「仲添え(なかぞえ)」と4日目の「留め添え(とめぞえ)」で原材料を加えていきます。2日目の何もせず「待つ」という時間に、原材料が馴染み均一化します。私たち人間はただ物を動かし、原材料を合わせ、時間・温度の管理をしながら、微生物が馴染むのを待ち、育む仕事をしているのだなぁと感じます。お酒は静かにそっと寝かせておいて欲しいのに、人間に起こされたりかき回されたり…。お酒が醸す香りや味わいは、彼らにとっての「雄叫び」であるような気がします。(笑)
毎年秋に酒造りの前に行う「祈醸祭」の様子。酒造時期の始まりには、高森阿蘇神社宮司により、杜氏、酒造スタッフ(倉子=蔵男)とともに修祓(しゅばつ:罪やけがれを祓うこと)を行う。
※画像は山村酒造様からお借りしました。
酒造りの命ともいえる水は、白川の源流に近い最上流の軟水。蔵の敷地内の地下水は一年を通して水温15度前後を保っている。

酒造りは御天道(おてんと)様の動き、月の満ち欠け、天気、暑さ・寒さなど、季節と共にあるような気がします。

事務局:
酒蔵のどんな風景に季節を感じられますか。
山村:
春には桜、石楠花(シャクナゲ)、牡丹、沈丁花(ジンチョウゲ)、木蓮(モクレン)が花を咲かせます。初夏は紫陽花(アジサイ)やミズキ、夏は凌霄花(ノウゼンカズラ)、そして酒造りに備える9月の「秋洗い」の頃には、蔵の前にある銀木犀(ギンモクセイ)が白い花を、そして石蕗(ツワブキ)が小さな黄色の花を咲かせます。秋には胡桃の木に実が生り、その実を乾かしていただきます。
私たちは春から夏の半年間で米を作り、秋から冬の半年間で酒を造り続けてきました。酒蔵の季節は半年単位で繰り返しています。酒蔵には季節毎の植物があり、季節の花が今年も約束通りに季節が来たことを教えてくれます。酒造りは御天道(おてんと)様の動き、月の満ち欠け、天気、暑さ・寒さなど、季節と共にあるような気がします。

日本の良さは相手を否定しない精神です。
酒も人の和を作るもの。日本の「和」の精神は、酒の精神に深くつながっているのです。

事務局:
お酒の席のマナーを一つ教えてください。
山村:
手酌をしないこと。もし手酌をする時は、誰かにお酌をした後に「お酒がまだ残っているから、そのおこぼれを頂戴します」という気持ちで自分の杯に注ぎます。
入口のギャラリーに展示していますが、私の祖父母が漢詩と絵を描いた合作があります。その漢詩は「ひとすくいの酒は千の憂いをはらい、三杯飲めば皆和む」という意味です。
日本の良さは相手を否定しない精神です。今、日本にあらゆる文化があるのは、かつて世界の文化を否定せず、全てを肯定して受け入れてきたことにあります。日本酒造りの最終工程で、原酒を美味しく和ませるために、「和水(わすい)」という割り水をします。酒も人の和を作るもの。日本の「和」の精神は、酒の精神に深くつながっているのです。
酒造りに備える9月の「秋洗い」の頃には、蔵の前にある銀木犀(ギンモクセイ)が白い花を咲かせる。蔵の花や植物を眺めながら、町に住む人たちと一緒に季節の移り変わりを共有している。
※画像は山村酒造様からお借りしました。
蔵の入口には蔵訓ともいえる、山村社長の祖父による漢詩が記された暖簾が掛けられている。

PAGE TOP