早春の旅食
Vol.6

熊本県北・・・早春の旅食

古くから水に恵まれ、米作りが盛んな菊池川中流域の和水・山鹿地域。
この地域は、2000年に渡る米作りが続き、日本遺産にも選定された実り豊かな地域です。
今回、豊かな水を生かした作り酒屋や温泉地を巡り、
伝統工芸に携わる灯籠師にお会いしてきました。

スタートは話題の地から

「日本マラソン界の父」といわれ、2019年大河ドラマ「いだてん」のモデルである金栗四三が生まれた熊本県玉名郡和水町。菊池川の中流域で水に恵まれつつ、小高い山に挟まれた、昔から米作りが盛んに行われてきた地域です。

金栗四三の生家(2019年12月23日まで公開)は、母屋は総建坪が100坪以上もある茅葺き屋根の大きな家です。母屋玄関の横には、「学校部屋」と呼ばれる、四三が勉強していた2畳ほどの場所があります。玄関入って右手には、4畳から10畳の襖や押入れなどで区切られた9つの部屋があり大家族で住んでいたことがうかがえます。玄関の左手土間には大きな木樽が置かれており、酒造りをしていた当時の様子が再現されています。代々庄屋を務め、酒造りをしていた時期もあったことを考えると、家が大きいのは納得というところです。

四三は、この家から約6km離れた小学校まで、毎日走って通学していたと言われています。四三自身、「小学校時代にマラソンの基礎が培われた」と語っています。天気が悪い日も走って通ったのかと思うと、身体のみならず、精神的にも鍛えられたであろうことがよく分かります。そして、金栗家が酒造りを辞めた後、それを引き継いだのが現在の「花の香酒造」です。

もとは茅葺き屋根だった金栗家。右側の高い木は四三が好んだというシナモンの木。
【写真(左・上)】
もとは茅葺き屋根だった金栗家。右側の高い木は四三が好んだというシナモンの木。
【写真(左・下)】
家の中には9つの部屋があり、当時は大家族の賑やかさの名残りが感じられる。
【写真(右)】
酒造りを行っていたころを再現したジオラマ。

豊かな水資源を活かす

金栗家から酒造りを引き継ぎ、明治35年に神田角次が創業したのは「花の香酒造」(当時は神田酒造)でした。金栗四三の生家から車で約2分のところにあります。「花の香酒造」という名前は酒蔵の前にあった梅の古木が由来になっています。その梅の古木は春になると花を咲かせ、その花の香りが蔵の中まで漂っていたのだそう。この梅の香りが名前の由来となって「花の香酒造」とつけられたのです。また、酒造りに欠かせない水はもともと蔵が建っていたところにあった妙見神社に湧き出していた岩清水です。なんと、蔵が建っている地は一枚岩の岩盤でできており、岩盤の割れ目から水が湧き出した場所だそうです。この水は岩盤を通ることで程よいミネラル分を含み、中硬水の水質は良い酵母が育つ環境を作り出し、今に至るまで酒造りを支えているのです。

花の香酒造は焼酎も作っていますが、杜氏(とうじ)の入れ替わりを機に蔵の原点である清酒づくりに戻ることを決断。杜氏でもあった神田社長が清酒「獺祭」で知られる山口県の旭酒造へ、酒造りの修行に行きます。修行期間は40日間。ところが、受け入れ先の旭酒造としては社長が40日間も会社を空けて本当に修行にくるのか、半信半疑だったとのこと。しかし、実際に社長自ら修行し新たな酒造りの技を身につけ帰ってきました。その後、修行の成果を発揮し、フランスで開催された日本酒コンクール第1回「Kura Master」において最高賞であるプラチナ賞と、審査員特別賞を受賞することができたのでした。

2019年2月。かつての事務所と酒蔵を改装し、テイスティングバーを併設した「花回廊」がオープンしました。これまで使われてきた古い酒造りの道具をはじめ、写真家のハービー山口氏が撮影した和水町や蔵の風景が展示されています。これまで、110年以上続いている蔵の風景を見ながら、花の香酒造の酒造りの道のりに想いを馳せることができるでしょう。そして、ギャラリーの奥には御神水が今も尽きることなく湧き出しています。純米大吟醸「花の香」の華やかな中にもキリッとした清々しい味わいは、まさに御神水の賜物。現在は、すべての原材料を地元和水のもので作ることを目指して、さまざまに動きはじめています。まず、酒米の質を高めるためにコメ農家とともに品質基準を設定しました。さらに新田の開発に向けた計画を一歩一歩進められているとのこと。これから生み出される酒を味わえる日が待ち遠しく、楽しみになります。

ギャラリーの真ん中に、石清水をイメージする手水が設えられています。
【写真(左)】
ギャラリーの真ん中に、石清水をイメージする手水が設えられています。
【写真(右・上)】
改装された「花回廊」。和の造りを活かしつつモダンな建築に生まれ変わりました。
【写真(右・下)】
岩盤の割れ目の湧水を組み上げた井戸。

癒やしと撮影スポット満載の湯宿

和水町から山鹿へ向かう途中で、奥山鹿温泉とも称される平山温泉に立ち寄りました。平山温泉は、立ち寄り湯はもちろん家族湯も多く湯宿も豊富です。地元の山鹿地域の人はもちろん、高速道路を利用し福岡方面からの利用客も多いことで知られています。平山温泉の特徴は硫黄が含まれていることです。山鹿温泉は無味無臭のアルカリ単純泉ですが、平山温泉はほのかに硫黄の香りがする硫黄泉。そのためか、湯の中にふわふわと白い湯の花が漂っているのが見えることがあるといいます。

平山温泉には新旧合わせて多くの温泉施設がありますが、平山阿蘇神社から左に曲がり、少し坂道を上ったところにあるのが、古民家を移築した温泉宿「一木一草(いちぼくいっそう)」。受付がある建物は、福岡県の新宮阿智にあった古民家に現代のテイストを加味して移築再生しています。玄関口から入って建物内を見渡すと、高い天井と家を支える太い柱と梁に年月の長さを感じることができるでしょう。和の中に溶け込むアジアンテイストが妙に落ち着く宿でした。「草庵」という離れは、熊本市内にあった旧細川藩由来の建物を移築再建したもので、ゆったりした空間に、古き良き時代と現代がマッチしたぜいたくな空間にとして生まれ変わっています。また「兎」というもう一つの離れの客室は鴨居飾りに兎があしらわれていたり、窓の模様にも兎が使われていたりして、小さなお子さんがいらっしゃるお客様に好評なのだそうです。そのほか、欄間の彫刻や梁、灯りや廊下、風呂など、どれも個性豊かにデザインされ、写真撮影のスポットだらけ。あっという間に時間がたってしまいました。

女将にオススメをうかがったところ「雨の日の露天風呂が最高」とのこと。なんでも、雨が降り注ぐことで、露天風呂がマイナスイオンにあふれるので、ゆっくり浸かっているだけで疲れが吹き飛び身体がスッキリするのだそうです。次に行く時には、ぜひ体験したいものだと思いました。

勇さんが手掛ける万能ナイフ。キャンパーらアウトドア派に人気がある。
【写真(左・上)】
「兎」のお部屋の火鉢の五徳も兎。
【写真(左・下)】
雨の日にはマイナスイオン降り注ぐ半露天風呂。苔の緑が美しい。
【写真(右)】
お部屋を結ぶ回廊。暗くなるにつれて照明と柱の影による表情が豊かになる。

伝統を受け継いで

温泉というと山鹿温泉もまた美肌の湯として広く知られています。そして山鹿というと忘れてはならないのが山鹿灯籠です。
第12代景行天皇が筑紫路巡行の折、山鹿の地で深い霧に進路を阻まれ進めなくなったところ、山鹿の里人が松明を灯して天皇をお迎えした故事に由来し、天皇の行在所跡である現大宮神社に松明を奉納した火祭りを行ったのがはじまりと言われています(諸説あります)。それが約600年前から、和紙で作った灯籠を奉納するようになりました。菊池川を含めた水資源に恵まれていたことに加え、和紙の原料となるミツマタやコウゾが手に入りやすかったことも、灯籠が作られるようになることを後押しすることになったようです。

山鹿灯籠は、平成25年12月に、国の伝統的工芸品に指定されました。紙と糊だけで作られる灯籠は、柱などの部分が中空になっており、とても軽いことに驚かされます。例えば、祭りの際に、踊り手が頭に乗せる「金灯籠(かなとうろう)」は重さが約180gです。ほぼ携帯電話1個分くらいの重さしかないのです。また「屋敷造り」といわれる建物をモデルに作られるものは造りも工夫されていて、実物の見た目に近づけるために制作上は縦横の縮尺が均一ではないそうです。

灯籠を製作する灯籠師になるためには平均10年かかると言われています。加えて灯籠師の修行は厳しいことでも知られています。灯籠師の一人である坂本ゆかりさんは、13年前の平成17年に山鹿へ引っ越してきた際に見た灯籠の美しさに魅了されたことが、灯籠師の道に進むきっかけとなりました。のちに灯籠作りの体験会に参加し灯籠師募集への応募を経て、弟子入りすることになったそうです。子どもの頃から図画工作が好きだった(本人いわく「好きだったのはそれだけだったと言ってもいいほど・・・」とか)ため、自然な流れだったのだとか。弟子入りした最初から細かな指導はなく、すぐに紙を渡されて「これを切って」と指示されたそう。もちろん渡された紙は練習用ではなく実際に灯籠作りに使う紙で、まさにぶっつけ本番です。最初は直線を切るだけでも手が震えたというのも最もなことでしょう。その後も自分の作業をしながら、斜め前で作業をする師匠の手元を盗み見て技を磨く修行の日々が続くのです。そして8年の修行を経て平成29年4月にほかの2人の見習い灯籠師とともに独立を果たします。

独立は一人前の灯籠師としてのはじまりです。挑戦を続ける坂本さんは、紙の可能性を追求するアートコンペティション「紙わざ大賞」へ応募します。灯籠造りの技術を活かした作品「崎津天主堂」は、入賞を果たしました。実は応募作品は師匠には内緒で制作していたとのこと。叱られるのではないかと内心ビクビクしたそうですが、弟子入りしてから初めて「よくできている」と師匠から評価され「たいへんホッとした」と話されていました。

主婦でもある坂本さんの仕事時間は、午前8時30分から午後5時を厳守しているそうです。5時以降の残業はしないと決めているのは、主婦として家の仕事も手抜きをしないため。実際、作業部は整然と整えられ制作中の灯籠の部品がそれぞれ分けて整理されていました。小さな部品がたくさんあるので整理しないとかえって作業に支障が出るのでしょう。しかし細かな仕事ぶりには妥協しない灯籠師としての姿勢が表れているようにも感じました。おそらくこれからも自分のペースを守りコツコツと灯籠師として歩まれるのだろうと思います。そして、灯籠祭りに完成した灯籠が飾られるのを拝見するという、祭りの楽しみが一つ増えました。

紙わざ大賞・入賞の「崎津天主堂」と坂本ゆかりさん。
【写真(左)】
紙わざ大賞・入賞の「崎津天主堂」と坂本ゆかりさん。
【写真(右・上)】
大宮神社に奉納した「奉納灯籠」。思い入れがあってご自身で買い戻したそう。
【写真(右・下)】
きちんと整理されトレイに分類されている作りかけの部品。

今回は たけのこと祝蕾(春蕾)の酢味噌掛け

和水町~山鹿への旅
県北は菊池川流域を中心に2000年も前から米作りをしていた地域。
菊池~山鹿~和水~玉名の菊池川流域は、日本遺産として登録されています。
肥沃な菊池川流域では今でも稲作のほか、たくさんの野菜や果物が作られ、それを利用した加工品の生産も盛んな地域です。

今回、春の県北の旅。春の食材で春らしい料理を作ってみました。
県北の春はたけのこ。
鹿北町岳間では「たけのこ街道」がありたけのこのシーズンには各飲食店でたけのこ料理を楽しむことができます。
3月後半から4月中旬の期間、鹿北町で開催予定されています。

春の山菜について
春はエグミのある食べ物が多いですが、このエグミの正体は一体何なんでしょう?
冬の体から春の体へと、スムーズに移行させていくのに欠かせない食べ物が山菜です。

実はこの苦みにこそ、冬から春の体に変わるメカニズムをスムーズにする働きがあるのです。
冬眠から目覚めた熊が一番初めに口にするのは「ふきのとう」と言われているのも、ふきのとうの苦みを体内に取り入れることで、眠っていた体を目覚めさせるためでしょう。
春一番に顔を出すふきのとうやたらの芽など、山野に自生して食べられる植物を山菜と呼んでいます。本来は栽培されないもの、それゆえに特有の苦みや香りが強く、春の体に必要な植物なのです。

春の山菜には抗酸化力の高いポリフェノール群が豊富に含まれています。苦みや香りを含んだ春の山菜を上手に取り入れ、冬の間に体内に溜まった老廃物や脂肪を排出しましょう。上手に体内の熱を取り除くことは、春先の疲れやだるさを取り去り、そしてやがて訪れる暑い夏を、元気に乗り切る体を作ってくれます。

たけのこのアク抜きの仕方

たけのこ … 2〜3本、米ぬか … 1カップほど、唐辛子 … 1本

たけのこは、はじめに流水で土を洗い落とします。あく抜きに用意するのは、たけのこに加え『米ぬかと唐辛子』です。


たけのこのあく抜き前の下処理

たけのこはゆでる前に、アクを抜きやすくし、水周りをよくするための切り込みを入れます。たけのこの実の部分を切り落とさないよう、はじめに先端1/5程度を斜めに切り落とします。

続けて切り落とした部分に垂直に浅く切り込みを入れます。包丁を入れる深さは、たけのこの実まで到達しない程度、1〜2㎝ほどで十分です。

たけのこはできるだけ深さのある鍋に、重ならないように入れ、米ぬかと唐辛子を加え、水をそそぎ入れて準備完了です。※たけのこ3本に対して、米ぬか1カップ、唐辛子1本(種を除かずに)を合わせました。


たけのこのあく抜きのゆで方

たけのこは上の工程で火にかける前に水を加えた通り、水からぬかと唐辛子とゆでていきます。鍋を中〜強火にかけ、沸くのを待ちます。※米ぬか入りなので、吹きこぼれやすいです。沸く少し前から鍋の中を確認しながら作業しましょう!

鍋の中が沸いてきたら、落し蓋をして火を弱めます。ここで、火加減を微調整して煮汁の沸き方を安定させるのですが、煮汁が吹きこぼれない程度に、鍋肌がグツグツ沸いている状態にします。

その状態でゆでるのですが、1本300〜400gくらいの小サイズは1時間半ほど、500〜750gくらいの中サイズであれば2時間ほど、ずっしりと重たい1本1㎏以上のものであれば3時間ほどが目安になります。

たけのこと祝蕾(春蕾)の酢味噌掛け
<酢味噌掛けレシピはクックパッドにて>
■たけのこと祝蕾(春蕾)の酢味噌掛け
https://cookpad.com/recipe/5555926#share_url
取材文:愛垣水奈子
写真:愛垣水奈子・眞藤隆次
料理紹介文:相藤春陽(春陽食堂)
レシピ作成:相藤春陽(春陽食堂)
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