タイミングを逃さず、時代に合う手段を活用。

八代市宮地町、妙見宮(八代神社)の門前町にある「盛髙鍛冶刃物」。その歴史は700年以上前、鎌倉時代初期の1293年(永仁元年)にさかのぼります。
祖師の金剛兵衛源盛髙(こんごうひょうえみなもとのもりたか)は福岡県太宰府宝満山の修験道者の刀工を務め、筑前国で13代続きました。その後、1632(寛永9)年に肥後国大名の細川三斎に従って現在の八代の地に移り、妙見宮修験道者の刀工として更に14代の歴史を重ねています。
27代目の盛髙経博さんが、家業を継ぐため故郷の八代に戻ったのは25歳の時。当時、一般家庭の包丁は従来の鋼(ハガネ)からステンレス製に主流が変わり、鍛冶刃物は衰退の時期にありました。そこから一念発起し、試行錯誤の末にオンリーワンの製品を開発し、新たな情報発信の手段や販路を見出すことなどにより、現在世界61ヵ国に製品を輸出するまでに成長しました。
まるで食材に吸い込まれていくような切れ味に驚かされる、盛髙さんの包丁。長い歴史の中で培った高い技術を活かし、時代に合う手段を活用しながら、お客さんの声の一つひとつに応えることを大切にしています。盛髙経博さんと仕事のパートナーでもある妻の明子さんに、その背景にあるお話を伺いました。

Vol.16

タイミングを逃さず、時代に合う手段を活用。

盛髙経博さん  盛髙明子さん インタビュー
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PROFILE

盛髙経博もりたかつねひろ

1972(昭和47)年、八代市宮地町生まれ。勤務していた東京から25歳の時に帰熊し、38歳で27代目を継承。2010(平成22)年に法人化し「盛髙鍛冶刃物株式会社」の社長に就任。父・経猛さん(会長)、母・弘子さん(副会長)、妻・明子さん(副社長)、妹・享子さん(店長)、弟・琢象さん(親方)、弟・照博さん(若職人)と共に製品作りを行う。日頃は鍛冶職人、催事では実演販売人を務める。

倉橋恭加さんの写真

盛髙明子もりたかあきこ

1974(昭和49)年、熊本市生まれ。2004(平成16)年に経博さんと結婚。11歳と9歳の二女の母。「盛髙鍛冶刃物株式会社」副社長として、経理などの事務全般と海外販売を担当。趣味の旅行、トレッキングなどで海外に行くために勉強していた英語を活かし、ホームページの英語訳リニューアル、海外のお客さんからの英語での対応などを担当している。

※盛髙経博さん:以下 経博、盛髙明子さん:以下 明子、くまもと手しごと研究所:以下 事務局

時代に合う手段を活用し、オンリーワンの製品をサイトで明確に打ち出せば必ず売れる。そう確信しました。

事務局:
経博さんが家業を継がれた頃、日本の鍛冶刃物の需要が減っていく状況で大きな危機感を抱かれていたと聞きました。その状態からどんな気持ちで、具体的にどのような行動を起こされたのでしょうか。
経博:
当時は、700年以上続く歴史と技術を途絶えさせてはいけない、どうにかしなければと、常にそのことばかり考えていました。店に刃物を買いに来るお客さんも減り、それならこちらから売りに出掛け、ニーズや声を聞いてこの先の新たな販路や戦略を探そうと、父と一緒に多い時で年間300日ほど全国の百貨店や物産展の催しなどに出掛けた時期もあります。都市部の百貨店の催事に出展した時、日本の包丁に興味を持っている外国人客が多いことに気づきました。その頃は、店舗などのリアルな世界で売り上げが落ちていく中、インターネットでの需要は伸びている時期でした。「包丁がネットで売れるものか」と言う人もいましたが、試してみる価値はあると思いました。もともと、うちのように自家鍛接した刃物を直接販売している刃物メーカーはなく、刃物製品をわかりやすく紹介したサイトもありませんでした。切れ味が持続し、長い間研ぎ直しを必要としないけれど自家鍛錬するには高い技術が必要な鋼(ハガネ)があります。私たちはその鋼を鉄で挟んだ両刃包丁を開発し、柄の部分にステンレス材で柄腐れしないように加工し、水気に強い紫檀(シタン)材を使用したオンリーワンの製品を作りました。
いつの時代もその時に合った売り方があります。時代に合った手段を活用し、オンリーワンの製品を他社との違いとしてサイトで明確に打ち出すことができれば必ず売れる、と確信しました。

タイミングを逃さないその直感や判断力は、危機感を持って常に手段を探していた時に身に着いた、「肌感」のようなもの。

事務局:
2007(平成19)年に制作した英語版のホームページが、輸出などにつながる大きな転機になったと聞きました。
明子:
初めは国内在住の外国人の方に向けてのものだったのですが、ある日、英語版のホームページを見たハワイのナイフ愛好家の方から、「良い包丁を作っているのに、なぜ海外で販売しないのですか」というメールが届いたんです。メールのやり取りをしているうちに「いつ頃なら包丁を買うことができますか?」と強い催促があり、その後輸出に関する手続き等を独学で習得し、3ヵ月後には海外販売をスタートしました。
経博:
その後、英語版のホームページを見たナイフファンの間でうちの刃物が口コミで広がり、アメリカのナイフのコミュニティサイトや動画などで取り上げられることが増えていきました。2011(平成23)年にアメリカの「ウォール・ストリート・ジャーナル」で有名なシェフが薦める包丁として紹介されたこともあり、その頃の輸出先は50ヵ国を超えました。
その少し前に、料理研究家の栗原はるみさんのレシピブックが「グルマン世界料理本賞」(THE GOURMAND WORLD COOKBOOK AWARDS 2004)を日本人で初めて受賞したり、健康指向や日本食ブームなどもあって日本の料理人や道具が世界で認められ、定着し始めていたというちょうど良いタイミングでもありました。「このタイミングでこれをやろう!」「この人たちに売れる!」という直感や判断力は、家業を継いだ頃の危機感を持って常に手段を探していた時に身に着いた「肌感」のようなものだと思います。

夫婦の関係は「太陽」と「月」のよう。

事務局:
仕事では経博さんが社長、奥さんの明子さんが副社長という役職に就いていらっしゃいますが、お互いの尊敬できる点や役割を教えてください。
経博:
副社長のすごいところは、細やかなところによく気づき、思い切りの良いところです。
明子:
お客さんの良い意見だけでなく、不満などのレビューを隠さずオープンにし、丁寧に応えるようにしています。ミスやお客さんの不満の声をそのままにせず、小さなうちにきちんと対応することでプラスに転じることができると思っています。次の世代に良い形でバトンタッチするために、負の遺産を残したくないという気持ちもあります。社長は「今何をするべきか」という直感に優れている人で、社長が「これをしよう」というお題を見つけてきて、私が具体的にどのような手段でやるかを提案する、という役割です。社長は常に冷静に一番良い方向に向かうことは何かを判断し、ネガティブなことを言わないタフな人。いつも2人でこれからの戦略の話をしています。
経博:
副社長が「太陽」、私が「月」のような関係でしょうか(笑)。

作ることに一生懸命で、売ることは人任せ。
今はそんな職人の時代ではない。

事務局:
これから大切にしたいことはどんなことですか。
経博:
更に製品の質とスピードを上げていくこと、そしてお客さんの評価を落とさないことです。
ステンレス素材が主流の外国にもうちの鋼の包丁が広がっているということは、錆びるけれど切れ味の良い鋼の包丁を評価してくださる方も多いということです。鋼の包丁は錆びますが、毎日使っていると徐々に錆びにくくなります。錆びたり汚れたら、クレンザーで磨けば錆が落ちてピカピカになり、錆びにくくなります。満足して使っていただくために、製品を売るだけでなく、包丁のお手入れや研ぐタイミング、修理のことを伝え、製品にも保証を付けています。
道具の分野にも「格差」があり、安いものや流行り物で良いという方と、こだわりのものを大切に長く使いたいという方に分かれているような気がします。その中でも職人が一生懸命作ったものを使いたいという方は増えています。
今の時代でも“作ることに一生懸命で売ることは人任せ”という職人さんが多いように思います。私の親の代までは外に出ていかなくても売れる時代でしたが、今は違います。私が家業を継いだ時はどうにかしてその手段を見出さなくてはならない状況でした。今思うと、そんな始まりの中で懸命に考え、試行錯誤したことがかえって良かったのかもしれません。

この包丁が一つあればほとんどの料理ができるという薄刃包丁。最高級の鋼を自家鍛錬して製造しているため切れ味が良く、長期間使うことができる一生もの。力を入れずにスッと切れるため、調理に疲れず、食材も美味しくなる。カチカチの冷凍食品を切ると薄刃が欠けやすいので注意が必要だとか。無料で名前を入れて(刻んで)くれるサービスも人気。
果物の皮をむいたり、ネギなどを刻んだりする時に便利な小さめの包丁なども。
子供用の包丁。刃の部分と柄にくまモンが。「子供用も他の包丁と同じくよく切れます。本物の切れ味を子供にも知ってほしいし、注意しながらよく切れる包丁を使い、正しい使い方を学ぶことが安全につながると思います」。
【写真(左)】
狩猟用の大型ナイフは、オーダーメイドも受けている。
【写真(右)】
2007(平成19)年に英語版のホームページを新設したことをきっかけに、海外販売を開始。現在(平成29年3月)、世界61ヵ国の包丁専門店と個人客に直売を行うまでに成長した。
築150年ほどの工場の中で、最高級の鋼(青紙スーパー)を自家鍛接、鍛造、焼き入れ、焼き戻し、研ぎ仕上げまで全て手作業で製造している。
2010(平成23)年から年に2回発行している「盛髙鍛冶刃物 鍛冶屋通信」。その時期の社長・副社長・店長・若職人などの考え、八代市宮地の店舗を見学に訪れた人たちとの親交、包丁の話、刃物のお手入れ法などが綴られている。「お客様との距離が近くなり、鋼の包丁のファンになっていただけたら」と編集を担当する社長・盛髙経博さん。
「盛髙鍛冶刃物店」は「妙見宮」(八代神社)の参道にあり、盛髙家の先祖は妙見宮修験者の刀工を務めていたという深い縁がある。昨年(平成28年)、「八代妙見祭の神幸行事」はユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」33件の一つに登録された。27代目・経博さんは「妙見祭運営保存振興会」の会員として八代の誇りの保存と振興の一端を担っている。

■盛髙鍛冶刃物
所在地:八代市宮地町434
問合せ: 0965-32-4643
URL:http://moritakahamono.ocnk.net/