Vol.8

天草プリンスホテル 女将 國武裕子さん インタビュー

PROFILE

國武裕子くにたけ ゆうこ

1950年、天草市本渡で生まれる。
天草市東町「天草プリンスホテル」女将。「天草女将の会」代表。
53歳の時にガンを発症したことをきっかけに、天草の自然の中を歩き始めた。改めて天草の自然・食・風景・歴史・文化・人に触れることで、心身ともに元気になれることを実感。その素晴らしさをお客様に提案しながら地域活性化を目指す「天草ヘルスツーリズム」は、平成26年5月に「くまもと観光賞 観光大賞」を受賞。

■天草プリンスホテルホームページ http://amakusa-princehotel.jp/

※國武裕子さん:以下 國武、くまもと手しごと研究所:以下 事務局

「そうだ! 天草を訪れるお客様に、歩きながら自然や地元の人や
季節の食べ物に触れ、元気になってもらおう!」

事務局:
「天草ヘルスツーリズム」を始めたきっかけは、ご自身の病気だと伺いました。
國武:
53歳の時にガンを発症し、翌年再発しました。退院後しばらくの間は、人と話したくない、笑うこともできない日が続きました。そんなある日、夫が私にこう言ったんです。「あんた、自分ば悲劇のヒロインと思とっど?(思っているだろう)」と。その言葉に驚きましたが、次に「当たり!」と大きな声で笑ったんです(笑)。主人の言葉で「よし、元気になろう!」と気持ちを切り替えることができました。
病気と向き合うにはまず体力が必要です。そこで近くの「十万山」(標高239m)に毎日登ろうと決心しました。頂上を目指して歩く中、季節の山野草や木々の花、風景、心地よい風と温かい光が私を包んでくれます。その自然に感動しながら、歩くことで少しずつ体力がついてくることを実感しました。それから3年間、どんなに体調が悪い時も、どんなに時間がかかっても毎日登り続けました。
天草の素晴らしさと豊かさは、海だけではありません。天草の里山にも美しい自然風景が広がり、歴史、食文化、風習など豊かな財産が数多くあります。「そうだ、観光やビジネスで天草を訪れるお客様に、天草を歩きながら美しい自然や地元の人、季節の食べ物などに触れて楽しんでいただき、元気になってもらおう!」と決めました。そして3年間、植物図鑑を持参して季節の山野草や薬草、正しい歩き方、怪我の処置等を学び、ヘルスツーリズムを始めるための準備を行ったのです。
【写真(左)】
移動するバスの中でガイドする國武さん。「春は河津桜から始まり、最後に咲く関山まで15種類の桜を見ることができます。見頃の3月下旬には7種類ほど見ることができますよ」等、参加者がまた天草を訪れたくなる話題もたくさん織り込まれている。この日は202回目の参加という福岡在住のご夫妻も参加。
【写真(右)】
「天草プリンスホテル」では、毎日ヘルスツーリズムのウォーキングを7:00~、9:00~、13:00~の3回実施。國武さんも1日最低1回はガイドとして参加している。ウォーキング前には必ず準備運動を実施。「これまで怪我をされたお客様は一人もいらっしゃいません」と國武さん。
この日(3月中旬)のコースのルートの一つ「東向寺」(天草市本町)は、慶安元(1648) 年に鈴木重成公が建立した由緒ある寺。文政7 (1860) 年に建立された本堂は現在改築中。東向寺開山・中華圭法禅師が本寺の建立記念にお手植えになったといわれる紅梅が美しく咲いていた。
「天草プリンスホテル」では、朝のウォーキングコースと朝食(和食・洋食・おかゆの3種から選べる)をセットで700円(前日まで要予約)で実施。ボリュームがあるのに、和食・おかゆは600kcal以下、洋食は500kcal以下で栄養バランス等に考慮したヘルシーな内容だ。器は天草の窯元(高浜焼、水の平焼、陶丘工房)のものを使用
※天草プリンスホテルの宿泊客の参加料金は宿泊料金に含まれます。

ホテル周辺3コースから始めたウォーキングは、現在全体41コースに拡大。
「天草ヘルスツーリズム」によって、地域の方の態度や意識も変化した。

事務局:
「天草ヘルスツーリズム」にはどんなコースがありますか?
國武:
最初はホテル周辺を歩く3コースから始め、現在は天草全体を楽しむ41コースに増えました。テーマは、ウォーキングと地域の食材を使ったヘルシーな料理を楽しんでいただくことです。例えば「二江 通詞島コース」では、春の時期に、菜の花が美しく咲く風景を眺め、路地を歩きながら島の人の暮らしに触れたり、地元の人が普段食べている料理(ひじきめし、とさかこんにゃく、がね揚げ等)をご馳走になることもあります。春の「倉岳山歩きコース」では、タケノコ掘りを楽しんだ後、タケノコ料理や椎茸を焼いて食べたり…。観光やビジネスでいらっしゃるお客様には、アワビ、車海老など天草の旬の魚は宿泊先や飲食店で召し上がっていただき、ヘルスツーリズムでは普段出会う機会がない天草の旬の食材や郷土の料理に触れていただきたいと思っています。何度もお越しいただくリピーターのお客様も増えてきましたので、季節、天候、お客様の好み、状況等によってコースを決めています。
「天草ヘルスツーリズム」によって、地域の方の態度や意識も変化してきました。最初は「なんしにきたんな」(何をしに来たのか)と警戒していた地元の人たちも、都市圏から来たお客様が天草の良さをほめてくださることが嬉しくて、お茶を出したり、あいさつをしてくださるようになりました。人が訪れることできれいになったり、整備された実例も多くあります。また、「うちのイチゴ摘みもコースに加えてください」「私の家には椿が200種類以上あります。ぜひ寄られませんか」「ミツバツツジが見頃になります。迎えに伺いますよ」等、色々な情報と協力をいただける方も増えてきました。コースの中でお客様と地元の方が触れる場を設けることが、地域の活性化にもつながります。「天草女将会」では、ヘルスツーリズムの考え方、コースの作り方、実施する前の準備等をまとめた「天草ヘルスツーリズムバイブル」を作成し、地域内外の方に応用し活用していただくためのお手伝いを行っています。
この日、コースのルートに含まれていた「松本さん家のパン工房」(天草市本町)。朝9:00までが一番焼きたてパンが揃っているという、朝のウォーキングルートにぴったりスポット。焼きたてのメロンパンやサンドイッチ、温かいコーヒーに参加者も大喜び。「お客様にルート途中で休憩と買物を楽しんでいただく等、地域の店舗や頑張っている若い方々との連携も大切にしていきたい」と國武さん。
國武さんが「椿屋敷」と呼んでいる、今堂家(天草市本町)の庭には200種以上の椿や、ハクモクレン、ミツマタ、沈丁花、ウグイスカヅラなど季節の花が咲く。今堂さんから國武さんに「天草ヘルスツーリズムでお立ち寄りください」と連絡があり、コースに加わった。

地域外との連携・交流にも力を入れ、ヘルスツーリズムによって元気になれること、喜びと感謝を伝えたい。

事務局:
現在、力をいれて取り組んでいることは何ですか?
國武:
「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界文化遺産登録を前に、天草女将の会と島原半島の女将会で連携・協力して、ヘルスツーリズムを拡げようとしています。更に交流を続けながら、お互いの地域のことを深く学びたいと思っています。
私はガンの再発を繰り返し治療を続けていますが、元気に日々の生活を送っています。体調が万全ではない日もありますが、ヘルスツーリズムを続けているお蔭で足腰は元気ですし、楽しく充実した毎日です。歩くことで知った天草の素晴らしい財産(人・自然・歴史・文化…)と、ヘルスツーリズムによって私自身が体験した、元気になれる喜びと感謝の気持ちを、一人でも多くの方に伝えていきたいと思っています。
ホテルのロビーには、これまでヘルスツーリズムに参加した方の写真や、お礼の手紙等が壁一面に貼られている。
「天草プリンスホテル」のヘルスツーリズムでは、コース途中で撮影した記念写真に、女将が手描きのメッセージを添えてくれる。