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上野友子さん
Vol.9

草木染作家 上野友子さん インタビュー

PROFILE

上野友子あがのともこ

1951(昭和26)年、熊本県葦北郡田浦町(現・芦北町)で生まれる。
39歳の時に独学で自然染料による草木染を始める。半年後に「くらしの工芸展」(主催:熊本日日新聞社)に出品したタペストリーで受賞し、さらにその後の2年も他の作品で熊本県伝統工芸鑑賞などを受賞。リネン・綿・麻などの素材に草木染を施し、デザイン、縫製も手掛けるファッションアイテム(チュニック、ワンピース、パンツ、コートなど)が女性客を中心に支持されている。八代市在住。


■TOMOKO自然染 ホームページ
http://www.sizen-t.com/

※上野友子さん:以下 上野、くまもと手しごと研究所:以下 事務局

草木染を始めて半年後に工芸展で受賞。
まるで亡くなった母からのプレゼントのような気がしました。

事務局:
上野さんが草木染を始められたのは、39歳の時だと伺いました。
上野:
栄養士として病院に勤務し、東京の電機メーカーで設計アシスタント・技術などの仕事を経て、20代後半から、紳士服のオーダー品や既製品を全国展開する会社に経理として10数年間勤めました。草木染を始めたきっかけは、介護をしていた母が亡くなり、打ち込める何かを探していた時に、熊本市のギャラリーで平山美樹さんという染織家の方の作品に出合ったことです。平山さんは屏風などにロウケツで花や抽象物をデザインされていたのですが、その作風と感性に強く心が動かされました。
草木染の専門家である山崎青樹(せいじゅ)さんの本を読んだり、染料専門店であれこれ教えてもらいながら、独学で草木染を学びました。半年ほど経った頃、「自分の作品は専門家の方にどう評価されるのだろう」と、熊本日日新聞社が主催する「くらしの工芸展」に茜染のタペストリーを出品し、奨励賞をいただいたのです。それはまるで亡くなった母から贈られたプレゼントのような気がしました。
さらに翌年は藍染の作品で熊本県伝統工芸館賞を受賞。またその翌年はヤマモモの樹皮で染めた作品で連続受賞することができました。その審査を務められた工業デザイナー・秋岡芳夫先生が気に入って購入してくださった私の作品が、後に掲載された先生のご自宅の写真に写っていたのを目にした時はとても嬉しかったですね。その後に会社を辞め、草木染に専念する決意をしたのです。
もともと私は子供の頃からファッションへの憧れが強く、デザイナーの山本耀司さん、川久保玲さん、ヨーガンレール、熊本出身の田山淳朗さんなどのブランドに夢中でした。草木染を始めたのも「自分が染めた服を身に着け、染めた布に囲まれて暮らしたらどんなに心豊かだろう」と思ったことからでした。
【写真(左)】
2003年秋の作品。モデルは上野さん自身。
【写真(右)】
草木染作家・上野友子さん。藍染に柿渋の絞りを入れた六重ガーゼのチュニックと、ヤマモモの樹皮で染めたストールを着用。(2015年6月、八代市のアトリエにて)
展示会やアトリエを訪れてくださるお客様の
ご意見やご要望が、新たな作品の参考に。
事務局:
どのような原料を使って染め、どのような作品を手掛けられているのでしょうか。
上野:
茜、ザクロ、五倍子(ごばいし)、ヤマモモ、柿渋、藍、墨といった自然染料で、リネン、綿、麻などの自然素材を染色し、タペストリーや洋服を作っています。染料は専門店から購入する場合もありますが、自ら山野へ出かけて、ヨモギ、葛(くず)、セイタカアワダチソウなどを集めることもあります。
草木染を始めた頃は、コースターなど小さな布から始め、徐々にテーブルセンター、タペストリーなどの大きな作品を手掛けるようになりました。そして次に始めたのが、もともとやりたかった「洋服」です。初めは専門家に縫製を依頼していたのですが、丈の長さや微妙なラインなど細やかな要望を伝えるのが難しく、「自分で納得できるものは自分でやるしかない」と、縫製も手掛けるようになりました。自分でデザインし、選んだ生地で縫製し、草木染めした服を自ら身に着けて生活し、「美しいラインが出るデザイン」「動きやすいデザイン」「美しく変化する染色」「心地よい布素材」などを模索してきました。
年に数回行っている展示会(2015年は5月に開催。次回は未定)や八代市のアトリエに来てくださるお客様からの「次はこういうのを作って」「こんなデザインが欲しい」というご意見やご要望がとても参考になります。「長く着ていて色が落ちてきたから染めて」というご要望に応じて「染め重ね」も行っています。これは最初の色に戻すのではなく、色を染め重ねることによって、新しい色や風合いとの出合いを楽しんでいただきたいというものです。そうやって長く使っていただくことも提案していきたいと思っています。
上野さんが手掛けるチュニック、ワンピース、パンツ、ジャケット、コート、ストールなど。(上から2013年秋、2014年春・夏、2014年夏、2015年春・夏)。写真のモデルは全て上野さんで、撮影は上野さんの御主人が担当。
作品のテーマは「暮らしを豊かにしてくれるもの」
その原点は、私が生まれ育った田舎暮らしの中にあります。
事務局:
上野さんの作品のテーマを教えてください。また、デザインや色の発想はどういうところから浮かぶのでしょうか?
上野:
テーマは「暮らしを豊かにしてくれるもの」です。タペストリーなどを例に挙げると、それ一つで物語が完結するのではなく、「大好きなあの絵を隣に飾りたい」「あの場所に掛けたら素敵だろうな」など、選ぶ時に作品の居場所や、一緒に見る人との時間などをイメージしていただけるもの。そして実際に日々の暮らしの中で身にまとったり、目に触れるたびに、心が豊かな気持ちになるようなものを作りたいと思っています。
私の作品の原点は、私が生まれ育った葦北郡田浦町の豊かな「田舎の暮らし」にあります。
亡くなった私の母は、まさに「暮らしを豊かに楽しむ人」でした。幼い頃、ホウセンカの花で爪をオレンジ色に染めてくれたり、竹ぼうきを持って一緒にホタルを捕まえに行き、蚊帳(かや)に放した幻想的な夏の夜の記憶。古い家の庭には、スモモ、ビワ、イチジク、ザクロなどの花が咲き、やがて実り、その色や味わいに触れた喜びが幸せな記憶として残っています。
ニッカポッカをいち早くゴルフウェアに取り入れるなど、とてもお洒落だった父。そして自然溢れる環境の中で楽しむ豊かな暮らしを教えてくれた母。愛する両親が教えてくれた、日々の暮らしを楽しむ豊かな気持ちを、私の作品を通してこれからも表現し、伝えていきたいと思います。
幼い頃、病気がちだったという上野さん。格子のタペストリーは、少女の頃、床にふせってぼんやり眺めていた雪見障子の桟(さん)の記憶がモチーフとなっている。
原料を煮出して作る染料液で布を煮て染め、鉄分などを溶かした媒染剤に浸して発色させる。
※写真は熊本県伝統工芸館様のホームページよりお借りしました。
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