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Vol.4

春うらら。県北でリフレッシュ

菊池川の下流域に位置する玉名市。面積の5分の1近くが、
江戸から昭和と約350年にわたって行われた大規模な干拓によって生まれた土地です。
有明海の沿岸域に広がる広大な平野では干拓を機に稲作が行われるようになり、
近年はハウス園芸も盛んです。春の味覚がいっぱいの玉名をドライブしました。

全長約5.2㎞!時代を語る、石積みの堤防

玉名市のなかでも、有明海に面した海辺の集落の多くは、加藤清正による干拓事業によって生まれたものです。税が年貢米としておさめられ、武士への給与が米で支給されるなど、米がお金の役割も果たしていた江戸時代。稲作や麦作ができる農地を増やすことは人口増に伴う食糧対策だけでなく、藩の財政に直結する取り組みでもあったのでしょう。清正は菊池川の流れを直線的に変えるなどの治水事業を行う一方で、有明海の干潟を利用して塘(とも)と呼ばれる堤防を築き、新田を開発しました。干拓事業はその後、細川氏へと引き継がれ、明治・大正・昭和と約350年にわたって続いていきます。こうして生まれた干拓地には周囲の村から段階的に人々が移り住み、農業や漁業、海苔の養殖で生計を立てる人も増えていきました。
玉名の干拓の歴史を今に伝えるのが、明治後期の干拓でつくられた「旧玉名干拓施設」です。四角い石が整然と積み上げられた潮受け堤防は、高さ6mほどはあるでしょうか。真下から見上げるだけでも圧巻ですが、全長約5.2㎞にもわたって続くスケール感もすばらしく、“海の万里の長城”と称されるのも頷けます。堤防に沿って歩いていると、ところどころで石の積み方が異なることに気づきます。大正時代以前に行われた「布積み」(石を平行に積む手法)と、昭和に入って行われた「谷積み」(石を斜めに積み上げる手法)が併用されていたり、コンクリートの波返しがつけられている場所があるなど、時代時代の工夫が見られ、職人たちの手仕事の変遷や土地の歴史に思いを馳せるきっかけになりました。
「旧玉名干拓施設」からほど近い、トマト農家「蘇鉄園芸」を訪ねました。酸味・甘み・うまみの際立つ桃太郎トマトと、味わいの濃厚なミニトマトは、関東や関西など各地のシェフから指名買いが相次ぐ逸品です。社長の蘇鉄国光さんはこう話します。「江戸時代の干拓地に先祖が入植したのが始まりです。もとは海だったこともあり、土はミネラル分がたっぷり。トマトの糖度も上がりやすいので、収穫したトマトは糖度別に仕分けするなど、味を均一にして出荷する工夫もしています」。
蘇鉄園芸には、自慢のトマトを使ったもうひとつの逸品があります。それが、「トマトケチャップ」です。野菜ソムリエの資格も持つ妻の薫さんが「わが子のように手間暇かけて育てたトマトだからこそ、無駄なくおいしく食べていただきたい!」と考案したものです。ふわっふわの食感と甘み、酸味のバランスがすばらしく、コクもある“ごちそうケチャップ”という印象。いつものハンバーグやスクランブルエッグにひとさじかけるだけで、家族に「お店の料理みたい!」と言わせるほどのおいしさです。

旧玉名干拓施設
【写真(左)】
堤防と樋門が残る「旧玉名干拓施設」は、全国的にも貴重な干拓遺産。日本遺産に登録された「米作り、二千年にわたる大地の記憶~菊池川流域「今昔『水稲』物語」~」の構成文化財のひとつでもあります。
https://www.kikuchigawa.jp/
【写真(右・上)】
末広開と明丑開の間にある樋門(ひもん)「六枚戸」。これを境に山側が明治の干拓でできた土地、海側は昭和後期の干拓地です
【写真(右・下)】
大正時代以前に用いられたのが平行に積む「布積み」。昭和に入って行われたのが斜めに積み上げる「谷積み」。この両方が同時に見られるポイントも。潮害により決壊した堤防の復旧・改修工事の変遷がうかがえます
内陸側の畑の間で見つけた「九番(くばん)堤防」。1859年につくられたもので、界隈を歩けば、こうした江戸時代の堤防の名残をあちこちで見ることができます
内陸側の畑の間で見つけた「九番(くばん)堤防」。1859年につくられたもので、界隈を歩けば、こうした江戸時代の堤防の名残をあちこちで見ることができます
土手にはオオイヌノフグリやホトケノザなど、春の野草が満開
【写真(左)】
土手にはオオイヌノフグリやホトケノザなど、春の野草が満開
【写真(右)】
旬の盛りを迎えたイチゴ。横島町の直売所「ふるさとセンターY.BOX」では5月頃まで、イチゴの収穫体験も楽しめます
蘇鉄園芸の加工品。トマトケチャップのほかにジュースやピューレなどもあります。(ネット直売のほか、新玉名駅の「たまララ」などでも販売されています)
【写真(左)】
蘇鉄園芸の加工品。トマトケチャップのほかにジュースやピューレなどもあります。(ネット直売のほか、新玉名駅の「たまララ」などでも販売されています)
【写真(右)】
摘みたてのミニトマトを手にする国光さん
■蘇鉄園芸(国ちゃんのトマト屋さん)
玉名市横島町横島10207
tel. 0968-84-2887
オンラインショップ
http://www.k-tomato.jp
■野坂屋旅館
葦北郡芦北町佐敷373-1-1
<宿泊>1泊2食つき6480円〜
※食事のみのご利用も昼夜ともに応相談
tel. 0966-82-2510
http://nozakaya.com/
■ふるさとセンターY.BOX
玉名市横島町横島1716
tel. 0968-84-3700
営/9時~16時
体験期間/12月~5月(イチゴがなくなるまで)
所要時間/時間制限なし、食べ放題(持ち帰りは不可)
料金/【12月~3月末】大人1300円、未就学児500円、
【4月~5月上旬(GW)】大人1000円、未就学児500円、【5月上旬(GW)~5月末】 大人500円、未就学児250円
※前日までの要予約

絶景の横島山。まもなく桜も満開に

田畑やビニールハウスが並ぶ町並みを前にすると想像もつきませんが、約400年程前まで、横島町の大半は海でした。町名の由来となった「横島山」(当時は横島)は、その名の通り、“島”だったのです。
干拓前の風景を想像してみたくなり、横島山(標高約56m)へ登ってみました。桜の並木が立ち並ぶ山頂は、お花見の名所としても知られますが、長洲の造船所や小岱山、金峰山と360度の風景も見どころのひとつです。あまりの眺望の良さにしばし見とれていると、鍬を担いで坂を上ってくるひとりの男性に出会いました。麓にある田んぼを耕した帰りだそうで、「この辺は海の底だったけん、1mばかり掘り返すと土中から貝殻がいっぱい出てくるもんなー」と一言。さらに、横島山にある「新九郎坂」について、「新九郎は海賊って言われるばってん、伊倉や高瀬に向かう外国船がどっちゃんこっちゃん行くと困るけん、水先案内人の役割をしよったんじゃなかろうか。伊倉には、中国からの貿易船をつないどった銀杏もあるけん、見に行くとよか」と、興味深い話を教えてくれました。

石塘築堤工事の成功を祈った横島山の山頂には、当時の経文を埋めた「経塚」が。その周囲には桜並木が広がり、開花時期にはお花見スポットとしても人気
【写真(左)】
石塘築堤工事の成功を祈った横島山の山頂には、当時の経文を埋めた「経塚」が。その周囲には桜並木が広がり、開花時期にはお花見スポットとしても人気
【写真(右)】
横島山の西側にある「新九郎坂」からの眺め。ちなみに坂の名前は、横島山がかつて孤島だった頃、「海賊」と恐れられていた水軍に由来するそう
横島山の山頂で出会った男性。横島山の話や農業の面白さについてひとしきり語った後、「なーん、名前は恥ずかしけんよか」と笑いながら坂を下っていきました
横島山の山頂で出会った男性。横島山の話や農業の面白さについてひとしきり語った後、「なーん、名前は恥ずかしけんよか」と笑いながら坂を下っていきました
横島山の傍らにある「山の上展望公園」。園児たちの楽しそうな歓声が響いていました
【写真(左・上)】
横島山の傍らにある「山の上展望公園」。園児たちの楽しそうな歓声が響いていました
【写真(左・下)】
ビニールハウスが立ち並ぶ横島町の干拓地。はるか向こうにぼんやりと写っているのは、雲仙普賢岳です
【写真(右)】
「山の上展望公園」では日本の在来種のシロバナタンポポが可憐な花を咲かせています
キャベツ畑ではモンシロチョウが待っていました
【写真(左)】
キャベツ畑ではモンシロチョウが待っていました
【写真(右)】
横島山の麓で見つけた池では、レンコンの植え付け準備の真っ最中

歩きたくなるまち、伊倉。パワースポットもいっぱい

玉名市の高台にある伊倉商店街は、17世紀の初め頃、高瀬と並ぶ海外貿易の港町として栄えました。菊池川の治水工事と干拓事業、さらに徳川幕府の鎖国政策などにより、今ではすっかり港の面影はなくなっていますが、町を歩けば「唐人町」や「バテレン坂」などの地名を見ることができ、当時の名残を感じます。
横島山で出会った男性に教えてもらった銀杏の木は商店街の西側に広がる、唐人町の一角にありました。「唐人舟繋ぎの銀杏」(県指定天然記念物)です。樹齢600年ともいわれる大木は冬枯れしてはいるものの、落ち葉でふかふかの土を踏みしめているだけで、秋の見事な紅葉が目に浮かぶようです。かつて、伊倉台地の下には「丹倍津(にべつ)」という名の港があり、唐船や南蛮船が頻繁に出入りしていたといわれます。名前の由来はそうしたことから来るようですが、実はもう一つ、この銀杏の木には大きな役割がありました。それが、「下地中分線(したじちゅうぶんせん)」の境界点です。
伊倉商店街の東端には、道路を挟んで北と南にふたつの八幡宮があります。ひとつは熊襲沈静のため南向きに建つ「伊倉北八幡宮」、もうひとつが海外貿易の発展を祈願し、有明海のある西向きに建つ「伊倉南八幡宮」です。もともとはひとつの八幡宮だったそうですが、鎌倉時代に領主と地頭の間で起こった争いを収めるため、幕府が荘園の中央に「下地中分線」を引き、北と南にわけたのだそう。これにより、八幡宮の氏子も北方と南方にわかれることとなり、北と南の両八幡が生まれました。ちなみに、唐人舟繋ぎの銀杏の対となる境界点は、南八幡宮の前の銀杏の大木。東西の銀杏の大木を結んだ線が境となって生まれた「下地中分線」こそ、現在の伊倉商店街です。

木立のなかに佇む「伊倉北八幡宮」
木立のなかに佇む「伊倉北八幡宮」
伊倉南八幡宮の前にある銀杏の大木は、下地中分線(したじちゅうぶんせん)の境界点でもあります
【写真(左)】
伊倉南八幡宮の前にある銀杏の大木は、下地中分線(したじちゅうぶんせん)の境界点でもあります
【写真(右)】
伊倉北八幡宮の境内で見つけた「木の葉猿」
朱塗りの社殿がある「伊倉南八幡宮」。左奥に見える鳥居は北八幡宮です
【写真(左・上)】
朱塗りの社殿がある「伊倉南八幡宮」。左奥に見える鳥居は北八幡宮です
【写真(左・下)】
カマボコ型をした「吉利支丹墓(きりしたんぼ)」。墓の全面には、うっすらと花十字の模様が刻まれています
【写真(右)】
唐人舟つなぎの銀杏
樹齢400年を超えるナギの木。熊野信仰のご神木です
樹齢400年を超えるナギの木。熊野信仰のご神木です
■伊倉北八幡宮
玉名市伊倉北方3009
tel. 0968-72-3537
■伊倉南八幡宮
玉名市宮原701
tel. 0968-72-2924

素材を生かす、実直なおいしさ
椿油と果肉たっぷりのジャム

伊倉商店街の南側にある「東製油所」は、明治元年の創業以来変わらぬ「玉締め法」で食用油をつくっています。五島や天草など九州各地からとりよせる椿の実を用いた椿油は、高級天ぷら店や料亭などでも使われる逸品。3代目の東裕之さんはこう言います。「低圧でゆっくりと油を搾り出すので、時間も手間もかかりますが、その分、椿のいいところだけを生かした油が取れるんです」。「お野菜を焼くときに使うと、甘みが際立って、とてもおいしくなるんですよ」と、母の東朋子さん。髪の手入れやお肌の手入れに使いたいと取り寄せる舞妓やモデルもいるそうです。何より、朋子さんの素肌の美しさが品質を物語っています。
天水町の「おっぺしゃん工房」は、同地区のミカン農家の妻たちが集まって切り盛りする加工所です。ミカンやイチゴ、キウイなど、自らの畑で育った農作物を使った手作りジャムは、玉名の特産品にも認定されています。「おっぺしゃんとは、美人じゃないけど気立てのいい女性を意味する言葉。不揃いの果実なども、手間暇かけたらおいしいジャムになるでしょう?」と、代表の楠岡浩美さんは言います。すべて受注販売が基本。週に一度、農作業が終わった後に集まるため、加工作業はほとんど夜に行われます。「イチゴジャムはできるだけ果肉をそのまま残した加工を心がけています。1日で15本つくるのが精一杯で、決して効率がいいとは言えませんが、このジャムが好きだと言ってリピートしてくださるお客さんも多くって。喜びの声を聞くと、このままがんばろうって思えるんです」。
東さんや楠岡さんの言葉を聞いて、玉名の食がおいしい理由を、またひとつ垣間見た気がします。

創業明治元年の「東製油所」
【写真(左)】
創業明治元年の「東製油所」
【写真(右)】
五島や天草から集めたという椿の実がいっぱいです
粉砕し、蒸した椿の種子を特殊な布に巻き、低圧でゆっくりと油分を搾り出す「玉締め法」。一般的な搾り方と比べると効率は落ちるといいますが、その分、純粋な椿油がとれるそうです
粉砕し、蒸した椿の種子を特殊な布に巻き、低圧でゆっくりと油分を搾り出す「玉締め法」。一般的な搾り方と比べると効率は落ちるといいますが、その分、純粋な椿油がとれるそうです
東裕之さん(右)と母の朋子さん
【写真(左)】
東裕之さん(右)と母の朋子さん
【写真(右)】
「いつもは8人で賑やかにやっています」と話す、楠岡浩美さんとスタッフの小田昭子さん
メンバーの畑で採れた完熟イチゴを果肉が崩れないように弱火でゆっくり煮詰めて作るのが「おっぺしゃん」流。果肉感が決め手です
メンバーの畑で採れた完熟イチゴを果肉が崩れないように弱火でゆっくり煮詰めて作るのが「おっぺしゃん」流。果肉感が決め手です
「玉名シプレ」という名のジャム。ミカンもイチゴもキウイも、すべてメンバーの畑で育ったものを使っています
「玉名シプレ」という名のジャム。ミカンもイチゴもキウイも、すべてメンバーの畑で育ったものを使っています
■東製油所
玉名市宮原648
tel. 0968-72-3446
※商品は新玉名駅「たまララ」、熊本県物産館、道の駅菊水ロマン館、草枕温泉てんすい、水辺プラザかもとなどでも販売されています
■おっぺしゃん工房
玉名市天水町小天7716
tel.0968-51-4094
※商品は新玉名駅「たまララ」、ふるさとセンターY.BOX、郷○市などでも販売されています。

「くまもと季節の旅食 県北編」
春陽さん特製の春の親子弁当

ミネラル豊富な干拓地の土壌を生かし、つくられたトマトやイチゴ、遠浅の海で育った海苔など、玉名の春はおいしいものがいっぱいでした。蘇鉄園芸のトマトは春キャベツとともにカップオムレツに。有明海のアサリはセリとともにおにぎりに。横島イチゴは、玉名牧場のフロマージュブラン(チーズ)と色鮮やかなロールサンドになりました。親子のおでかけにもぴったり、是非お試しください。

熊本の赤酒と巨峰のゼリー甘酒かけ、新感覚辛子蓮根!松橋百年蓮根のサラダ、冷やしだんご汁
<詳しいレシピはこちら>
■東製油の菜種油であげた玉名野菜南蛮
https://cookpad.com/recipe/4981869
■玉名横島トマトの簡単カップオムレツ
https://cookpad.com/recipe/4981867
■玉名牧場チーズと横島イチゴのサンドロール
https://cookpad.com/recipe/4981861

文と写真:木下真弓(Coto-lab.)
レシピ作成:相藤春陽(春陽食堂)