#016

初夏の「球磨焼酎」を味わい、森林と清流を想う

28の蔵元の一つである球磨郡多良木町の「那須酒造場」を訪ね、
夏に美味しい爽やかな飲み方や、相性の良い料理などについて教えていただきました。

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人吉藩700年の歴史の中で独自の文化が築かれた人吉球磨には、歴史・文化に関連する遺産が多く存在しています。また、九州山地に囲まれ、日本三大急流の一つである球磨川が東西に貫流する、森林と清流の聖地です。
良質の泉質を持つ温泉地としても知られ、豊かな水と肥沃な土地が広がるこの地域は、美味しい米の産地でもあります。この人吉球磨で古くから造られてきた「球磨焼酎」は、地理的表示の産地指定を受けた世界的なブランドで、現在28の蔵元で各々の個性ある米焼酎が造られています。
焼酎の仕込みは11月から5月上旬にかけて行われます。今回、蔵元の一つである球磨郡多良木町の「那須酒造場」に伺い、昔ながらの伝統製法と、焼酎と料理の相性についてお話を伺いました。

地域の人々に愛され、親しまれている世界的ブランド。
球磨焼酎の定義

「ボルドーワイン」「スコッチウイスキー」「コニャックブランデー」など、世界には地名を冠することを許された8つのお酒のブランドがあります。球磨焼酎はそのブランドの一つで、世界貿易機関(WTO)によって地理的表示の産地指定を受けています。
「球磨焼酎」の定義は、米のみを原料として、人吉球磨の地下水で仕込んだもろみをこの地で蒸留し、瓶詰めした焼酎であること。
この地域には、「ガラ」という球磨焼酎を注いで温めるための酒器や、注がれたら飲み干さなくてはこぼれてしまう「ソラギュウ」と呼ばれる三角錐のような猪口があります。また、宴会の席に欠かせない「球磨拳(くまけん)」といったこの地域に残る遊びからも、球磨焼酎が人々に愛され、親しまれてきた存在であることがわかります。

■球磨焼酎酒造組合

http://jp.kumashochu.or.jp/

【写真(上・左)】
ガラで球磨焼酎を温め、小さなチョク(猪口)でいただく。ガラには2合の量の焼酎が入るように作られている。
【写真(上・右)】
三角錐のように底が尖っているため下に置けず、注がれたら飲み干さなくてはならない盃(さかずき)「ソラギュウ」。
※【写真(上)】2点の画像は、球磨焼酎酒造組合様よりお借りしました。
【写真(下)】
「球磨焼酎」の定義は、米のみを原料として、人吉球磨の地下水で仕込んだもろみをこの地で蒸留し瓶詰めしたものとされている。
良質の食米を使い、伝統のもろぶた麹法でカメ仕込み。
昔ながらの手法を守り続けてもうすぐ100年の酒造場。
球磨郡多良木町の「那須酒造場」を訪ねて

大正6(1915)年、球磨郡多良木町で創業し、現在、3代目の那須富雄さんが代表を務める「那須酒造場」を訪ねました。ここでは人吉球磨産で作られた良質の食米を使い、もろぶた麹法による麹造り、カメ仕込みなど、一つひとつの工程が手作業で行われています。
平成25(2013)年の春季全国酒類コンクールの焼酎部門で「球磨の泉(常圧)」が1位に選ばれ、アイガモ農法で栽培された米で造る「鴨の舞」がモンドセレクションで何度も最高金賞を受賞するなど、国内外の審査会で高い評価を得ています。
現在杜氏を務めるのは4代目の雄介さん。父である3代目の富雄さんと母の明美さんとの家族3人で作業が進められていきます。
もろみの甘く豊かな香りが漂う酒造場の窓からは、市房山や白髪岳、春は菜の花、秋は彼岸花と、季節毎に移り変わる風景が広がります。「昔から変わらず手作業で焼酎造りを行ってきました。気温や湿度の変化によって毎日の作業も変わります。見て、触れて…五感で感じながら大切に手作業で造っていることがお客様に伝わり、美味しいと喜んでいただけることが何より嬉しいです」と4代目の雄介さんは言います。

酒造場から見える風景。作業場には、もろみの良い香りが漂う。
仕込みの模様。米を洗い、笊(ざる)で水を切り、蒸し、蒸しあがった米をカメの中に入れて二次仕込みを行う。那須家の3人の見事な「阿吽(あうん)の呼吸」で、作業がスムーズに行われていく。
【写真(左)】
石造りの麹室の中で作業をする3代目・那須富雄さんと妻の明美さん。白麹を使用し、杉の木の平箱(もろぶた)を使って、何度も手入れをしながら大切に米麹を造り上げる。
【写真(右)】
麹室の前で。右から「那須酒造場」3代目・那須富雄さん、4代目・雄介さん、明美さん。「焼酎は、一つの銘柄でも何百通りの飲み方が楽しめます。いろいろ試しながら好みの飲み方を探していただきたいですね」
減圧、常圧、樽熟成酒。種類によって相性の良い料理や飲み方が異なります。
球磨焼酎の種類と、相性の良い料理

球磨焼酎は大きく分けると「減圧蒸留酒」「常圧蒸留酒」「樽熟成酒」に分類されます。
「減圧蒸留」は蒸留器を密閉し、真空ポンプで蒸留缶内の空気を引き出し、気圧を下げることにより沸点をさげて蒸留したもの。これにより加熱による化学変化が起こらず、もろみに含まれる香りや味の成分をそのまま取り出すことができます。
「常圧蒸留酒」は、球磨焼酎の伝統的な蒸留方法です。常圧蒸留とは、地上の大気圧(水の沸点が100℃の状態)で蒸留することにより、もろみが高温で沸騰し、沸点の高い成分や加熱により化学変化してできた成分などが留出して独特な香りと濃醇な味わいが生まれます。
そして「樽熟成酒」は、焼酎の原酒を樫樽で貯蔵することによって、樽由来の香りや味わいを付与したものです。減圧蒸留酒と常圧蒸留酒どちらも樽熟成されますが、それぞれの原酒や貯蔵する樽の種類によって香りや味わいも異なります。
また、使用する麹(白麹・黒麹・黄麹)、酵母、貯蔵に使用するもの(カメなど)、貯蔵の期間…そして酒造場の製法や環境などによって味わいが異なります。


那須さんご一家に、焼酎と料理の相性について伺いました。
「一概には言えませんが、減圧蒸留の焼酎は素材の持ち味を味わいたい時や、さっぱりした味付けの料理に合うように思います。また、料理の合間に飲むことで、舌の感覚をリセットする役割もあります。
常圧蒸留の焼酎は、味つけや素材の味が濃くはっきりした料理に、そして樽熟成酒はチーズやチョコレートなどと良く合います。炭酸で割るハイボールには樽熟成酒で、グレープフルーツなどの果汁と合わせる場合は減圧焼酎が良いと思います」
焼酎は料理がさらに美味しくなる食中酒。たとえば食事の時に、減圧焼酎、常圧焼酎、樽熟成焼酎を1本ずつと、氷、水、炭酸、お湯などを用意し、料理やおつまみによって焼酎の種類を変えたり、飲み方を変えてみる楽しみ方もお勧めです。
球磨焼酎組合のホームページにも、美味しい飲み方や料理がたくさん掲載されていますのでご参照ください。

【写真(上)】
那須明美さんに教えていただいた、人吉球磨の料理「骨かじり」。豚骨(地元では「骨かじり用」として販売されている。スペアリブで代用可)を、塩をたっぷり入れたお湯で肉がほろほろに柔らかくなるまで炊いたもので、減圧焼酎を炭酸水で割ったハイボールとの相性も抜群。「旬の食材を使った季節の料理に合う飲み方を探して、焼酎と食事を楽しんでいただきたいです」と那須家の皆さん。
【写真(中央・左)】
那須家の定番「焼酎のソルティドッグ」。減圧焼酎をグレープフルーツの果汁で割り、塩でスノースタイルにして氷を入れたグラスに、減圧焼酎とグレープフルーツの果汁を入れてステアする。夏にぴったりの爽やかな飲み口だ。那須家ではグレープフルーツを使っているそうだが、熊本県産の柑橘類(パール柑、晩柑など)でもぜひお試しを。
【写真(中央・右)】
樽熟成焼酎とチーズ、チョコレートなども相性が良い。読書などを楽しみながら、チビチビと味わうのもいい。
【写真(下)】
初夏から秋にかけての人吉球磨地方の風物詩「鮎料理」。塩焼きは減圧焼酎、甘露煮は常圧焼酎をロックや水割りと合わせて味わいたい。

■那須酒造場

球磨郡多良木町久米695
問合せ TEL0966‐42‐2592