一年で最も昼が長く、夜が短くなる「夏至」。暦の上では夏の真ん中ですが、梅雨真っ盛りで非常に湿気が多く、蒸し暑い時期。
次の節気は「小暑」。暑さがどんどん強くなっていくという意味があり、七十二候には「温風(あつかぜ)至」という候があります。梅雨が明けると、強い日差しを受けて気温はぐんぐん上昇。熊本は一気に本格的な夏を迎えます。
今回は、この時期の風物詩の中から、「トマト」、「夏越の大祓」、そして七夕にちなんで「機織(はたお)り」の話題をお届けします。

色とりどりの「トマト」

「茅(ち)の輪くぐり」

花束のように贈りたい、色とりどりの「トマト」
ガーネット、ヒスイ、サンゴ、トパーズなど、まるで心躍る宝石箱のよう。
熊本県はトマトの生産量日本一。夏の野菜と思われているトマトですが、県内では、八代市、宇城市、阿蘇市、玉名市などで一年中栽培されています。一大産地である八代地域は減農薬栽培の「はちべえトマト」や、海に近い干拓地で生産されている糖度の高い「塩トマト」などで知られています。八代地域で栽培されているトマトは11月~6月頃が収穫のシーズン。その後は11月頃まで、阿蘇地域がトマトの収穫期に入ります。
13品種のカラフルなミニトマトを詰めた「宝石とまと」が人気の「ミヤザキファーム」(八代郡氷川町)を訪ねました。トマト、ミニトマト、メロンの栽培を行う「ミヤザキファーム」2代目の宮崎修太さんは、東京の農業者大学校で学んだ後、帰熊。就農して7年になります。専門知識や研修を通して学んだことを生かし、土づくりにこだわり、微生物を使った環境に優しい栽培方法を実践し、完熟収穫した新鮮なトマトを提供しています。
「ミヤザキファーム」のハウスの中では、小鈴、アイコ、マイクロトマト、イエローアイコ、オレンジキャロル、オレンジチャーム、桃太郎ゴールド、濃い紫色のトスカーナバイオレット、グリーンゼブラなど、色とりどりのトマトが宝石のように輝いています。その華やかさから“宝石箱”や“花束”を連想させるトマトは、贈り物としても人気が高いとか。
「たくさんの品種を一農家で栽培するのはとても手間がかかります。今後は八代の農家で連携して栽培したり、“宝石とまと”を使った新しい加工品なども開発したいですね」と宮崎さん。熊本県内の若手農業者が加入する「青年農業者クラブ」(通称:4Hクラブ)の会長を務め、野菜ソムリエでもある宮崎さんが4Hクラブの仲間たちと一緒に共同開発した「完熟トマトのもなかアイス」は、「道の駅竜北」(八代郡氷川町)などで一年を通して販売されています。
- ■ミヤザキファーム
- 問合せ:TEL 0965-52-6914
ホームページ:http://www.miyazakifarm-hikawa.com/(別窓リンク)



故事に由来する「茅(ち)の輪くぐり」
半年間の罪けがれを祓い清め、残り半年間の無病息災を祈る、6月の「夏越の大祓式(なごしのおおはらいしき)」の神事です。
毎年6月と12月の晦日(月の最終日)に行われる「大祓式」。その神事について、北岡神社(熊本市西区春日)の第46代宮司・井芹愼一郎さんにお話を伺いました。
「“大祓式”とは、半年間の罪けがれを祓い清め、残り半年間の無病息災を祈るものです。スサノヲノミコトを御祭神とする当神社では、年に2回、毎年6月の“夏越の大祓”、12月の“年越の大祓”の神事を、各々晦日(月の最終日)に行います。
6月の“夏越の大祓”の神事では、茅(ち=かや)で作った輪をくぐる“茅の輪くぐり”を行います。スサノヲノミコトが諸国を旅する途中に、おもてなしを受けた蘇民将来への一宿一飯の御礼として茅の輪を与えたことで、その子孫は流行りの疫病から代々逃れることができたという故事にならったものです。
“夏越しの大祓”の日は、神職が参列者に大祓詞(おおはらいのことば)を宣(の)り、切麻祓(きりぬさはらい)を行います。また、自分の名前や年齢などを書いて身体をなで、息を3度吹きかけ、罪けがれをのり移らせた紙の人形(ひとがた)を、舟を模した茅に包まれた木箱に納めます。本来は神事後に茅の舟に乗せ川に流して祓いましたが、現在は人形のお焚上げを行い、河原にその一部をお納めしています」と井芹さん。
今年の6月30日と7月1日に北岡神社で行われる「夏越の大祓式」では、厄除けほおずきの頒布(はんぷ)も行われます。
- ■北岡神社
- 所在地:熊本市西区春日1-8-16
問合せ:TEL096-352-2867
ホームページ:http://www.kitaoka-jinja.or.jp/(別窓リンク)


母から娘へと受け継がれた「雑草織」の手しごと
古来の日本で、機織りをした布を神様に供え、災いを祓う行事がありました。
それが今日の「七夕」とつながります。
7月7日は五節句の一つ「七夕」。古来、日本には「棚機女(たなばたつめ)」と呼ばれた乙女が、機織り(はたおり)をしてできた布を神様に供え、災いや厄を祓う行事がありました。「七夕」を「たなばた」と読むのは、その行事によるものといわれています。今回は、昔ながらの機織り機で手織りした布(雑草織)を使って創作活動をされている今和泉俊子さんにお話を伺いしました。
夏目漱石の小説「草枕」にも登場する、熊本市西区河内の「峠の茶屋」。そこからさらに少し進んだ金峰山のふもとに、「雑草織」と「天然染」を手掛ける今和泉俊子さんの工房があります。今和泉さんは、カラムシ(ポンポン草)の茎の繊維を織り、ベスト、バッグ、ジャケット、コート、帽子などを制作しています。
古くからアジアでは繊維を取るために栽培されていたという「カラムシ」。今では野生の草が、あちらこちらで生えているのを見かけますが、日本では戦時中まで栽培されていて、重要無形文化財技術指定の越後上布(えちごじょうふ)や、沖縄の八重山上布といった上質の着物にも使われていました。
今和泉さんは、採取したカラムシの茎を1週間ほど水に浸け、洗い、芯の部分を乾かした繊維を使い、機を織り、作品に仕上げていきます。あえて茶色の表皮を残したり、太い繊維を使ったり、柿渋や墨など天然染料で染めた繊維をアクセントに用い、一つの作品の中に味わいと変化を作ります。
もともと「雑草織」は、洋裁教室を主宰していた母・睦子さんが日本の豊かな自然、いにしえの暮らしや伝統に魅かれて始めたもの。60代で睦子さんが病に倒れた後、今和泉さんが母の後を継ぐ形で始めたのです。
「カラムシの繊維を使って織った布は野性味があり個性的。かつ、草をまとうような清涼感があり癒されます。その織物をどのようにモダンなデザインに仕上げるかがテーマ」と今和泉さん。コートやジャケットには、今和泉さんが30代まで主に手掛けていた陶芸で作ったボタンを付けます。母から受け継いだ想いと手法、娘である今和泉さんの感性が織りなす、個性溢れる温かな織物です。
- ■創作工房(今和泉俊子)
- 問合せ:TEL 096-277-2187

