暑さ寒さも彼岸まで。昼と夜の長さが同じになる「秋分」を境に、これからだんだん日が短くなっていきます。すっかり秋らしくなり、次々に登場する野菜、果物、魚など旬の味覚が楽しめるこの時期、空には鰯雲が広がり、草原にはススキが揺れ、木々の葉が黄色に色づきます。
そして、続く「寒露」は、露が冷たく感じられる頃。秋も深まり、そろそろ冬支度を始める時期になります。
人参、大根、ごぼうなど、これから美味しくなる旬の秋野菜を使った「お漬物」、秋の収穫を感謝する奉納芝居「清和の薪文楽」、11月のボジョレーヌーボーの解禁を前に、県内で注目されているブドウの一つ「高浜ぶどう」のお話をお届けします。


記されている

収穫を感謝する奉納芝居
清和の薪(たきぎ)文楽
各地で秋祭りが行われる季節です。秋に行われる祭りは神社等に収穫した農作物を供え、その土地を守る神様に感謝するもので、神楽や田楽等の神事芸能が行われます。
「清和文楽」は、江戸時代(嘉永年間)にこの地(旧・清和村)を訪れた淡路の人形一座から浄瑠璃好きの村人に伝授されたことが始まりといわれ、現在熊本県に残る唯一の人形浄瑠璃芝居です。人形浄瑠璃(文楽)は、日本を代表する伝統芸能の一つで、「太夫(たゆう)」の語りと、「三味線」の演奏、そして「人形遣い」が一帯となった総合芸術です。
上益城郡山都町大平にある「清和文楽館」のすぐ前には「大川阿蘇神社」があり、その境内には2005年に国有形文化財に指定された農村舞台が残されています。神社の境内では宮下文化が伝承され、農村舞台では、春になると神様に豊作を祈願し、秋は収穫を感謝する意味の「願成(がんじょう)」の奉納芝居がおよそ300年前から行われています。その時期になると農家の人々はその時期に地元で採れる一番美味しいものを食べながら、奉納芝居を楽しんできたのです。
稲刈りが行われる最中の、冷たい風が吹き始める晩秋の夜。この頃、清和文楽館では、年に一度の「薪文楽」が行われます。舞台では「寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)」等の演目の他、清和中学校3年生が人形の所作を踊る「清和文楽所作踊り」を予定。幻想的な雰囲気の中、奉納芝居と十人重箱弁当を楽しむことができます。
- ■薪文楽
- 開催日:平成27年10月10日(土)
問合せ・申し込み:清和文楽館 TEL0967‐82‐3001
料金:1名4,800円(重箱弁当付き)
※定員200名に達し次第受付を終了します。 ※雨天の場合は清和文楽館で開催します。
(清和文楽館ホームページ)
http://seiwabunraku.hinokuni-net.jp/(別窓リンク)

※写真は全て「清和文楽館」様よりお借りしました。

いけ花の教授に習う
秋野菜のお漬物
いけ花に野の草花を取り入れることによって、生活の中で自然や季節を感じ、楽しむことを原点とした流派「野の花をいける 草心流」。その教授である岡村草花(そうか)さんは、30年ほど前、初代家元の板垣草心氏のいけ花に出合い、「人も花もありのままが美しい」という家元の言葉とその花の姿の美しさに魅せられ、草心流を学び始めました。
岡村さんは、知る人ぞ知る、旬の野菜を使ったお漬物の名人。秋の草花が美しく咲く岡村さんのご自宅を訪ね、季節の草花のお話を伺いながら、簡単にできるお漬物の作り方を教えていただきました。秋から冬にかけて、新生姜、水田ごぼう、人参、大根など旬を迎える熊本県産野菜がより美味しく味わえます。

※器は上益城郡御船町「一道窯(いちどうかま)」の髙田一道(かずみち)さんの作品です。(岡村さん所有)

【材料】
・人参、きゅうり、大根…お好みの量
・市販の味噌…材料が浸かる程度の量

【材料】
・新生姜…お好みの量
・酢…生姜が浸かる程度の量
・塩…適量
・グラニュー糖…適量

【材料】
・水田ごぼう…お好みの量
・酢…生姜が浸かる程度の量
・グラニュー糖…適量
・薄口醤油…適量
※水田ごぼうは菊池エリアで生産されているもので、春・冬に旬を迎えます。
※器は熊本市出身で現在佐賀県北山に「北山窯」を設ける陶芸家・小川哲男さんの作品です。(岡村さん所有)

※器は小川哲男さんの作品です。(岡村さん所有)

紀行文「五足の靴」にも記されている
天草の高浜ぶどう
中秋の名月には、お月見団子の他に、実りへの感謝をこめて、旬の野菜や果物をお供えするという慣わしがあります。中でも蔓で育つ植物は、月とのつながりを強くする縁起の良いお供え物として知られ、夏から秋にかけて旬を迎えるブドウもその一つです。
県内各地で栽培されるブドウの中でも近年、注目を集めているのが天草市天草町の「高浜ぶどう」。旧高浜村(現在の高浜地区)では明治12年頃から、「高浜ぶどう」の栽培が始まりました。高浜の砂地の土壌がブドウ栽培に適していたこともあり、明治の終わり頃には諏訪や元向、中向、宮の前集落の多くの家々の庭先でブドウが青々とした葉を茂らせ、涼しい木陰を作っていたといわれています。
その様子は1907(明治40)年の7月下旬から8月末にかけ、パアテルさんこと、ルドヴィコ・ガルニエ神父に会うため、九州を訪れた「五足の靴」一行(北原白秋、与謝野鉄幹、木下杢太郎、吉井勇、平野万里)の紀行文に記されています。
「高浜の町は葡萄に掩(おお)はれて居る、家毎に棚がある、棚なき家は屋根に匍(は)わす、それを見て南の海の島らしい感じがした」
(紀行文「五足の靴」より)
大正、昭和の戦時中、ブドウは贅沢品といわれて芋などの作物に転作を余儀なくされたり、あるいはブドウの病気や天候変化の影響を受けるなどし、いつしか高浜ブドウは1本を残すのみとなっていました。
「文豪たちを魅了したかつての高浜の風景をもう一度、よみがえらせたい」
そんな思いから高浜地区振興会では2009年に「にぎわい創出事業」を立ち上げ、その推進役として「ぶどう班」を結成しました。同地区の宮口光敏さん宅に残る原木から挿し木という形で苗を育成。天草市商工会や地域住民らの協力のもと、苗の配布や定期的な勉強会を行うなどしながら「高浜ぶどう」の復活に取り組んでいます。
現在は、町内12軒が栽培を始めており、今年はそのうち4カ所のブドウ棚で収穫会が行われました。今年の収穫量は約110キロ。緑色〜うすい赤紫色をした「高浜ぶどう」は甲州種で、際立つ酸味が特長です。すっきりとした味わいを生かし、天草市商工会では昨年に引き続きワインを試作。今年は白ワイン20本とスパークリングワイン30本に加え、同振興会の「ふるさと納税」のお礼品として50本の白ワインが製造される予定です。
「今後は地元の菓子職人らとタッグを組んで、高浜ぶどうを使ったスイーツなども開発したい」と、同商工会天草支所長の林田さん。涼やかなブドウ棚の風景が広がるとともに、ブドウの特産品が生まれる日も近そうです。
※苗の配布は、天草町内に限られています。
※ワインは試作のため、今年度の販売予定はありません。
※ふるさと納税お礼品については、高浜地区振興会にお問い合わせください。
高浜地区振興会 TEL.0969-42-1125
- ■天草市商工会 軒先ぶどうプロジェクト
- http://project01tbudou.kataranna.com/(別窓リンク)


※写真は今年の同時期の高浜ぶどうの様子です。