#025

冬枯れの季節に、春の匂いを感じる「大寒」と「立春」の頃。

凍えるような寒さの中、新しい季節の訪れが待ち遠しい時期。
春を感じさせる上益城郡山都町の「ふきのとう味噌」、熊本市南区の「新酒の仕込み」、八代市の「宮地の手漉き和紙」づくりの風景をお届けします。

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一年で最も寒い時期から早春へ。
季節は移り変わり、物事や状況は必ず変化することを強く感じる時期です。
春の訪れが近づいていることを告げる上益城郡山都町の「ふきのとう味噌」、酒蔵の「春の新酒」の仕込み風景、寒い時期に漉く八代の「宮地の手漉き和紙」の様子をご紹介します。

春を感じる

ふきのとう味噌

上益城郡山都町で「食彩の里 ふしみ」を営む、岩本智鶴さんと岡ムツミさん姉妹。春は筍・ワラビ・山椒、秋は栗、冬は柚子、そして早春の蕗の薹(ふきのとう)など、山里の豊かな食材を取り入れた料理が季節の訪れを感じさせてくれます。
雪解けの時期にその姿を現すことから「春の使者」といわれる「蕗の薹(ふきのとう)」。1月末から3月上旬頃(2015年は12月にその姿を見かけていたとか)に、日当たりの良い土手などから、ころんとした黄緑色の頭が覗かせます。「雪の下や枯れ葉の中にその姿を見つけると、まだ寒い時期なのに…と愛おしくなりますね」と岩本さん。「ほら、あそこにも、ここにも!」と教えていただき、じっと目をこらしてようやくその姿を見つけることができました。
岩本さんと岡さん姉妹は、毎年早春になると上益城地域で採れた蕗の薹を茹でてアクを取り保存し、刻んだものを甘味噌と合わせて「ふきのとう味噌」を作ります。その風味が春の息吹を感じさせてくれると、県外のファンからの問合せも多いとか。保存した蕗の薹を使って少しずつ作る味噌は、5月から6月頃には在庫がすっかり無くなってしまう人気の逸品です。
摘みたての蕗の薹の葉を開き、「天ぷらの衣を固めに作り、裏側(下側)だけに少し小麦粉をはたき、更に天ぷらの衣をつけて、浮かせるようにして熱した油で揚げます。するとアクが抜けて美味しく食べられますよ」と岡さんが調理の仕方を教えてくれました。
「蕗の薹やワラビなどを探していると、季節毎の美しい山野草にも出合います。りんどう、ウメバチソウ、らっきょうの花…どれも本当に綺麗で可愛いんです」と岩本さん。普段何気なく見ている風景の中に、新しい季節の訪れを告げる自然の使者が多く存在することに気づかされます。

■食彩の里 ふしみ
所在地:上益城郡山都町柳井原929-1
問合せ:0967‐83‐1720
URL:http://www.fushimi-net.com/
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1月末から3月頃に顔を覗かせるという蕗の薹。「毎年、気が付くといつの間にか出ているのですが、この冬は12月には既に見かけました」と岩本さん。
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ほろ苦さと甘味噌のまろやかさがくせになる「ふきのとう味噌」は、毎年出る時期を待っているお客さんも多い人気商品。「炊き立てのごはんに良く合います」と岡さん。

早春の楽しみ

新酒造りの風景

小寒から立春までのおよそ30日間を「寒の内」と呼びます。その中間にあたる一年で最も寒い時期「大寒」は、空気中の雑菌が少なく水質も良いということから、味噌・酒などを仕込むのに適しているといわれています。
1月から2月にかけて、日本酒の仕込みがピークを迎える「瑞鷹株式会社」(熊本市南区川尻)を訪ねました。
「大寒は、日本酒の中でも低温長期でゆっくり発酵させることで芳醇な香りを育む“吟醸酒”造りに適している時期です」と、「瑞鷹株式会社」常務取締役・吉村謙太郎さん(「くまもと手しごと研究所」熊本市エリアキュレーター)が教えてくれました。
一般的に日本酒は、酒造米を精米し、洗米、浸漬(水に漬けて吸水させる)、蒸米、もろみ(酒母に麹・蒸米・仕込み水を加えて発酵させる)、上槽(酒しぼり)、澱(おり)引き・ろ過、火入れ(低温加熱)、貯蔵、割水、瓶詰めの工程を経て完成します。酒蔵では、毎年9月末頃の製造祈願祭から日本酒を仕込み始め、4月頃の「皆造(かいぞう:その年の酒造りを全て終えること)」で酒造りを終了します。
ろ過、火入れなどをせず、上槽を終えた段階で瓶詰めするフレッシュな生原酒(無ろ過)は春の楽しみの一つ。「瑞鷹株式会社」では、昨年10月から仕込みを始めた本醸造酒を皮切りに、純米大吟醸、純米酒などの新酒が11月下旬から春にかけて次々と出荷されていきます。
春の初々しい新酒と、ろ過や火入れなどを経て熟成させ、秋に味わう「ひやおろし」。私たちは、春と秋の2度、各々の時期に誕生する、味わいの異なる新しい日本酒を楽しむことができるのです。

■瑞鷹株式会社
熊本市南区川尻4-6-67
096‐357‐9671
URL:http://www.zuiyo.co.jp/
※川尻地区一帯で、2月6日(土)・7日(日)の和菓子の催しを皮切りに、3月6日(日)に瑞鷹株式会社で行われる「かわしり酒蔵まつり」までの期間、この地区の町並み・史跡・文化の魅力を楽しむ催し「かわしり春ものがたり」が開催されます。
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【写真(上)】
「日本酒が持つ“甘”“酸”の味わいを引き立てる、“塩”“旨味”のある料理は、日本酒との相性が良いようです。醤油で食べる刺身や酒盗などはその代表的なものです。春の新酒はそれだけでも楽しめますが、だしの風味が利いた春野菜のおひたし、かつおぶしをパラパラとかけた豆腐など優しい味わいのものは特に合うと思います」と瑞鷹株式会社・吉村謙太郎さん。(写真は菜の花のおひたしと、11月にいち早く登場した「しぼりたて新酒 華ばしり」)
【写真(下・左)】
新酒が誕生すると、それを知らせるため、酒蔵の軒下の杉玉も2月上旬に新しく作り替えたものが掛けられる。
【写真(下・右)】
純米大吟醸酒用の米を洗い、水に浸けて吸水させる「浸漬」を杜氏が行っているところ。大寒の時期は低温長期でゆっくり発酵させることで芳醇な香りを育む“吟醸酒”造りに適している。
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【写真(上・左)】
米を蒸しているところ。大きなカメのような器を甑(こしき)という。
※写真は瑞鷹株式会社様にお借りしました
【写真(上・右、下・左】
蒸米に種麹を混ぜて麹菌を増やす「麹造り(精麹)」の様子。この麹の良し悪しが酒の質を左右する。
※写真は瑞鷹株式会社様にお借りしました。
【写真(下・右)】
出来上がった酒母に麹・蒸米・仕込み水を加えてタンク内で発酵させているところ。
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その年に米を蒸す器「甑」を使い終え、逆さにすることから、酒の仕込みを終えることを「甑倒し」という。瑞鷹株式会社で酒の製造に関わる人がその日を記念して撮影した今昔写真。(左は昭和10年、右は平成27年3月28日に撮影されたもの)
※写真は瑞鷹株式会社様にお借りしました。

冬に漉く

宮地手漉き和紙

1600(慶長5)年に、加藤清正から招かれた柳川藩の紙職人・矢壁新左衛門(やかべしんざえもん)によって、八代市宮地地区に興(おこ)った「宮地手漉き和紙」。八代神社(妙見宮)のすぐ近くに工房と自宅を構える、「宮地手漉き(みやじてすき)和紙」職人の宮田寛さんを訪ね、寒い時期に行う紙漉き作業を拝見しました。
紙を漉く前に、クワ科の楮(コウゾ・カジ)を水に浸け、煮て、水気を切り、晒(さら)し粉を使って漂白し、すすぎ、原料を細かくほぐし、あらかじめ水に浸けておいたノリ(トロロアオイ)を加えておきます。それを漉いた和紙は圧力をかけて水分を抜いて半日程度置き、乾燥させ、裁断します。気温が高いとトロロアオイの成分が働きにくくなるため、寒い時期に手早く作業を行うことが、品質の良い和紙をつくる条件だといいます。
宮田さんはこの冬、12月下旬から1月中旬までの期間に紙漉きの作業を行いました。その中には、春に学び舎を巣立つ、地元の保育園児、小学6年生、中学3年生の卒業証書も含まれています。今年で82歳になる宮田さん。「和紙を漉くのはもうそろそろ最後になるかもしれまっせん」とポツリ。冬の寒い時期に行う作業は身体にこたえると言います。
宮田さんが漉く宮地手漉き和紙は、熊本県伝統工芸館1F「工芸ショップ 匠(たくみ)」などで販売されています。また、八代市の「手描き友禅 はるかぜ工房」の吉田春香さんは、宮田さんの和紙にイラストを施し、祝儀袋やブックカバーを制作しています。

■熊本県伝統工芸館
熊本市中央区千葉城町3-35
TEL:096‐324‐4930
URL:http://kumamoto-kougeikan.jp/
■手描き友禅 はるかぜ工房
URL:http://harukaze-koubou.petit.cc
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八代市の妙見宮近くの工房兼自宅で宮地手漉き和紙を漉く、宮田寛さん(2016年1月10日に撮影)。
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漉いた和紙は水分を抜き、乾燥させて裁断する。この日、宮田さんは300枚の和紙を漉いた。
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宮田さんと宮地手漉き和紙。「くまもと手しごと研究所」ホームページ特集に掲載している写真の料理や素材などの背景に、この宮地手漉き和紙を使用している。その特徴は、美しく、強くて丈夫なこと。