#026

水温み、森羅万象が動き始める「雨水」と「啓蟄」の頃。

桃の開花と、桜の便りを待つ頃になりました。
天草の素潜り漁師が春の訪れを感じる「天草市五和町」の海の風景、春に種蒔きを行う「藍」のお話、阿蘇の野焼き後の草原に一番に咲くキスミレを始めとする「スミレ」の情報をお届けします。

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海の中では温かな水で育った海藻がのびのびと手足を広げ、山では草原の草花や動物が冬眠から覚める頃。
春の温もりを感じ、むっくりと起き出した山や海の生き物たちが活動を始めます。
天草の海の中に訪れる春の様子と旬の魚介類について素潜り漁の男性漁師さんにお話を伺いました。
また、春に蒔く藍のお話を御船町の藍染作家に、そして春の阿蘇に咲くキスミレなどスミレの魅力と野の花を見るマナーを山野草の生態に詳しい専門家に教えていただきました。

漁師が海で出合う

天草・五和町の春の訪れ

人口3000人ほどの小さな町、天草市五和町二江地区。美しく深い藍色の海では、鯛、ヒラメ、ウニ、車エビなど四季折々の魚介類が水揚げされ、一年を通してイルカの泳ぐ姿が見られます。
この五和町では100年ほど前から男性漁師による素潜り漁が行われています。(その他、天草市新和町、牛深町などでも男性の素潜り漁が行われています)
春のような暖かい日差しが降り注ぐ2月上旬、五和町の二江漁港を訪ねました。この時期の素潜り漁で多く水揚げされるのは「トサカ」という海藻。生では赤く、湯通しすると緑色になります。
「3月上旬になると海藻がぐんぐん伸び始むっとです。冬は白かった岩肌が、春に育つ海藻で一面緑色に変わります。そんな時に“もう春なんだなぁ”と感じます」「春に旬を迎えるのがムラサキウニで、夏は赤ウニ。地元では夏の赤ウニを“宝多(ホタ)ウニ”と呼んでいます。あっさりしている春のムラサキウニに比べて、夏の赤ウニは濃い味わいですね」と、二江地区裸潜組合・組合長の勝木義人さん、会計・木口修一さん、書記・木口奨(しょう)さんが教えてくれました。
トサカ漁の時期にはナマコ、サザエ、アワビなども旬を迎えます。そして2月~5月はオコゼ、3月~4月はワカメやメカブ、3月1日~5月10日頃はムラサキウニ、3月中旬~5月は鯛、4月~7月はキス、4月~5月はフグなどが水揚げされます。

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【写真(左)】
天草市五和町二江地区では現在57名の男性素潜り漁師がいる。左から、二江地区裸潜組合・会計・木口修一さん、組合長・勝木義人さん、書記・木口奨(しょう)さん。3人は「年々、海の中の海藻が減ってきていると感じます」と語る。
【写真(右)】
1月11日頃から6月末まで解禁になる海藻「トサカ」。
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【写真(上)】
五和の通詞大橋のすぐ近くにあり、全国の魚市場や宿泊施設、百貨店などに天草の天然魚を卸している「天草フーズ」。
【写真(下・左、下・右)】
一般の人も店舗やネットで購入できる。そのいけすの中には、伊勢海老、アワビ、オコゼなど新鮮な海の幸が。
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通詞大橋の下から眺める、早春の漁港の風景。
■天草漁業協同組合五和支所
所在地:天草市五和町二江4689-6
問合せ:0969-33-0211
■天草フーズ
所在地:天草市五和町二江158
問合せ:0969‐33-1311
URL:http://amakusa-foods.co.jp/

春に蒔く「藍」の種

御船町の藍染め作家を訪ねて

深く青い海の色にも例えられる「藍」。
藍は弥生時代に中国から日本に渡来したといわれ、「魏志倭人伝(ぎしわじんでん)」には卑弥呼が魏王に帆布(はんぷ)を献上したという記述が残っています。古くから日本では藍で染めた作務衣(さむえ)などの衣類や、風呂敷などが日常生活の中で用いられてきました。
「藍染」には、“たで藍”という植物の葉を使用します。たで藍は旧暦2月(新暦3月)頃の春に種を蒔き、夏に刈り取りを行い乾燥させます。その後、葉を重ね2~3ヶ月ほど発酵させた“すくも”を熱した灰汁(木灰)の中に入れて混ぜ、7~10日ほどおいた液で布を染色します。
藍染や草木染を行う上益城郡御船町の「福永幸山堂 肥後藍御船工房」を訪ねました。工房の主人・福永幸夫(ゆきお)さんは、専用の紙(渋紙・洋型紙)に細やかな図柄や文様を彫り染める「型染め」の技法を用いた作品で知られています。作品のテーマは、地球と自然の共生、熊本城と季節の風景、雛祭りなど暦の行事。その細やかさに驚かされます。
御船高校、熊本工業高校、八代工業高校などで美術科教師を務めた福永さん。日展をはじめ熊日総合美術展などで多くの受賞を果たしています。定年前に藍染めに出合い、平成元年には、勤めていた熊本工業高校繊維科の生徒と一緒に藍の種を蒔き、同年7月にその葉を収穫して“すくも”を作り、作品づくりを行いました。店舗内には当時の種蒔きから作品作りまでをわかりやすく説明した写真と説明文が残されています。

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【写真(上)】
「福永幸山堂 肥後藍御船工房」の外観。工房の見学や藍染め体験もできる。
【写真(下・左、下・右)】
御主人の福永幸夫さんが手にしているのは、収穫したたで藍の葉を重ね2~3ヶ月ほど発酵させた“すくも”。これを熱した灰汁(木灰)の中に入れて混ぜ、7~10日ほどおいた液で布を染める。
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専用の型紙に細やかな図柄を彫る福永幸夫さん。この後、型紙を布に据えて防染糊をつけ、染めた後に水洗いして糊を落とすのが「型染め」の技法。
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【写真(上、下・左)】
福永幸夫さんによる「型染め」の型紙。工房には福永さんが手掛けた数多くの美しい型紙が保存されている。
【写真(下・右)】
奥さんの福永悦さん。模様を施した板を使ったり、柄に生地を折りたたみ染める「板締め」の技法を用いたハンカチ、ストール、洋服などを制作。
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【写真(左)】
平成元年、熊本工業高校繊維科の生徒と一緒に藍の種を蒔き、同年7月にその葉を収穫して“すくも”を作り、染織した布地。
【写真(中央、右)】
福永幸夫さんによる型染めの壁掛け。(桃の節句と端午の節句)
■福永幸山堂 肥後藍御船工房
所在地:上益城郡御船町御船1033‐2
問合せ:096-282-0217

春の山に会いに行く

阿蘇の野に咲く「スミレ」

美しく希少な動植物が多く生息する阿蘇地域。
「キスミレ」は春の野焼きの後の草原に一番早く花を咲かせることでも知られています。
日本には約60種の原種のスミレが生息するといわれ、阿蘇には「スミレ」の原種約40種が生息しています。その数は日本で最も多いといわれています。
環境省自然公園指導員などを務める瀬井(せい)龍蔵さんと、野の花をいける「草心流」教授・岡村草花さんは、ともに阿蘇の原種のスミレが咲く春に足しげく山に「会いに行く」という、熊本県自然ふれあい指導員。瀬井さんは24年間、スミレをはじめとする阿蘇の野花を見つめ続け、花の和名と生息地の関係などを紐解いてきました。また、「日本すみれ研究会」の会員である岡村さんは、交配種の苗を譲り受け、自宅の庭で大切に育てています。
近年、禁止されているにも関わらず、山に咲く野生の植物を「家で育てよう」と持ち帰る人が増えています。瀬井さんは15年前、土の中のバクテリアと菌に着目し、野生の植物にはその土地でしか根付かない特定の菌“菌根菌”があることを知りました。野に咲く野生の植物は子孫を残すために自分が育つ場所を知っていて、それ以外の場所の菌のないところでは育たないのです。
「原種を持ち帰って、どんなに丁寧に手入れをしても育つことはありません。山のものは山で見ること」と、瀬井さんと岡村さんは言います。
春のスミレや野の花を、一番美しく咲いている場所に見に行きませんか?

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【写真(左)】
環境省自然公園指導員、熊本県自然ふれあい指導員などを務める瀬井龍蔵さん。
【写真(中央)】
野の花をいける「草心流」教授・岡村草花さん。「山のものは山で見るべき」「連れて帰らないこと」と話す。
【写真(右)】
瀬井龍蔵さんが最も好きな「アケボノスミレ」。瀬井さんによると「夜明け空の桃色からついた名前」。葉が出る前に花を咲かせ、花はスミレの中では最も大きく、鮮やかな蛍光色のピンクで、スミレの女王と言われています」。岡村草花さんが最も好きなのは、スミレ科スミレ属のすみれだとか。※
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【写真(左)】
野焼きの後、阿蘇の草原に一番早く咲く「キスミレ」と「ウスギキスミレ」。※
【写真(右)】
熊本を中心に四国・九州で咲き、葉が三分裂、もしくは五分裂しているのが特徴の「ヒゴスミレ」。※

※は全て瀬井龍蔵さんが撮影された写真をお借りしました。
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「日本すみれ研究会」の会員である岡村さんは、交配種の苗を譲り受け、自宅の庭で大切に育てている。植え替えを行い、各々のスミレに合う場所に置くなど大切に育て、1年に一度、春に花が咲く頃の10日間程度、自宅の庭を公開している。また、熊本の季節の野の花をいける「草心流(そうしんりゅう)」は、熊本市下通で2月26日(金)~3月6日(日)開催の「城下町くまもと肥後ひなまつり」で挿花を展示。2月28日(日)13:00~16:00には会場内に草心流体験コーナーを設ける。
(ご自宅のスミレの写真は全て岡村さんにお借りしました)