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#029

五感で春の到来を感じる「啓蟄」と「春分」の頃。

土の中で眠っていた虫が暖かさに誘われて動き出し、桜の開花と花見が賑やかに話題にのぼる頃。
熊本の春の味「阿蘇高菜」にまつわるお話、染織家が手掛ける美しい「春の織物」、春に咲き揃う天草の「椿」の庭をご紹介します。

今日は何の日?

05/28

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【二十四節気】
【七十二候】

柔らかな木々の緑や花の色、温かな水、頬をなでる風の香、はしゃぐような鳥の声。
森羅万象が目覚め、五感で春の訪れを実感する頃です。
3月下旬、熊本の春の風物詩「阿蘇高菜」が収穫の時期を迎えます。阿蘇市で阿蘇高菜の栽培とその種を使った商品を手掛ける佐藤智香さんに阿蘇高菜にまつわるお話を伺いました。
そして、熊本市在住の染織家・堀絹子さんの工房を訪ね、絣(かすり)の技法に基いて作る美しい「春の織物」を見せていただきました。
春の花・桜が満開を迎える頃、咲き揃う「椿」。200本以上の品種が春を中心に花開く、天草の椿屋敷・今堂(こんどう)家の庭にお邪魔しました。
春を迎えられたことに感謝し、その喜びを共に味わいたい季節です。

未来に蒔く種
春の「阿蘇高菜」
阿蘇市で阿蘇高菜の栽培とその種を使ったマスタードを製造販売している佐藤智香さん。阿蘇市で生まれ育った佐藤さんは、在来種の阿蘇高菜を守り残したいと農業に転身。佐藤さんに教えていただいた、他県で栽培されている高菜とは違う阿蘇高菜の特徴、収穫時期、漬物、花が咲く時期や風景など、阿蘇高菜にまつわる話をご紹介します。
普段着こそ美しいものを
絣の技法を用いた「染織」
「真弓工房」(熊本市南区田迎)を主宰する染織家・堀絹子さんは、絹糸、羊毛、木綿、麻を使い、訪問着、また略礼装の着物、普段着の着物、洋服、小物など生活の中で使うものを作っています。今回、堀さんが染織した春の織物を見せていただきました。その美しさと多くの手間をかけた工程は「ものを大切に作り使い切る暮らし」の豊かさを教えてくれます。
桜の頃に咲き揃う「椿」
天草・今堂家の春の庭
天草市本町の今堂家の約1,000坪の庭には、9月半ばから5月半ばにかけて、ヤブツバキ系・ユキツバキ系、唐椿系など200~300種の椿の花が時期をずらして開きます。椿が最も多く咲き揃うのは、桜の開花が近い春彼岸(3月中旬)の頃。4月になるとワラビ、フキ、セリが育ち、6月には梅の実が生ります。そんな今堂家の春の庭にお邪魔しました。

未来に蒔く種

春の「阿蘇高菜」

秋に種を蒔いた阿蘇の高菜は、冬を越し、気温が高くなる3月上旬頃に一気に成長し、3月中旬から下旬頃に収穫の時期を迎えます。
阿蘇市で阿蘇高菜の栽培とその種を使ったマスタードを製造販売している「阿蘇さとう農園」代表・佐藤智香さんを訪ねました。阿蘇市で生まれ育った佐藤さんは、一時故郷を離れ大阪で働いていましたが、農家の祖母が育てていた在来種の阿蘇高菜を守り残したいと農業に転身。故郷に戻り阿蘇高菜の栽培を始めてこの春(平成29年)で4年目になります。「阿蘇高菜は、福岡産の辛子高菜や長崎県雲仙市のこぶ高菜とは品種が異なります。阿蘇市で収穫される在来種の阿蘇高菜は茎が細いのが特徴。繊細な茎を傷つけないように1本1本“手折り”して収穫し、その日のうちに漬物に加工します。不思議なことに、阿蘇高菜の種を別の地域で蒔いても同じようには育たたないんですよ」と佐藤さん。
4月下旬から5月の連休頃にかけて、佐藤さんの高菜畑一面に黄色い花が咲きます。佐藤さんは、5月末に収穫する種を使ったマスタード「阿蘇タカナード」を開発し、昨年(平成28年)10月から販売を始めました。その背景には「阿蘇高菜を使った新たな加工品が生まれることで、伝統の阿蘇高菜を作る農家が増えるように」という思いがあります。
また、佐藤さんが所属する「阿蘇市4Hクラブ」では毎年高菜の収穫日(例年3月中旬頃)に「阿蘇たかなまつり」(収穫&漬物つくり体験)を開催しています。阿蘇高菜の生育には気温の変化が大きく影響するため、年によって収穫量と時期が異なります。今年の開催日、生育状況などはフェイスブックでご確認ください。

阿蘇市の60アールほどの畑で阿蘇高菜を栽培し、“阿蘇タカナード”などの加工品を手掛けている佐藤智香さん。「収穫時にはこのくらい(60~70㎝)の大きさになります。高菜の収穫は通常3日程度で行うため、その期間は家族、親戚総出で作業にかかります」。(平成29年2月中旬、佐藤さんの高菜畑にて撮影)
佐藤さんが所属する「阿蘇市4Hクラブ」で、毎年高菜の収穫日(例年3月中旬頃)に阿蘇市内で開催している「阿蘇たかなまつり」(収穫&漬物つくり体験)の模様。今年(平成29年)は例年に比べて収穫量が少ないため(佐藤さん曰く「熊本地震の影響ではなく、種を蒔いた時期の天候に関係しているのではないか」とのこと)、開催内容は未定。阿蘇高菜の生育や催しの開催状況はフェイスブックで要確認。
■阿蘇たかなまつり
https://www.facebook.com/asotakanamatsuri/(別窓リンク)
※写真は佐藤智香様にお借りしました。
採れたての阿蘇高菜を塩と唐辛子で漬けた「新漬け」(青高菜)や、醤油漬け、数カ月から半年ほど漬けて乳酸発酵した「古漬け」などが物産館などで販売されている(新漬けは予約受付や期間限定で販売)。軽く水洗いしてそのまま食べるのはもちろん、葉で巻いたおにぎり、刻んで油で炒めてごはんに混ぜた”高菜飯”、肉と一緒に炒めても美味しい。
4月下旬から5月上旬のゴールデンウィーク頃に花を咲かせる高菜。高菜はアブラナ科で、同じアブラナ科に菜の花、キャベツ、ブロッコリー、からし菜などがある。佐藤さんは、アブラナ科のからし菜の種から作る「粒入りマスタード」からヒントを得て、阿蘇高菜の種から作るマスタードを開発した。
※写真は佐藤智香様にお借りしました。
「阿蘇タカナード」は在来種の阿蘇高菜の種、国産米酢、天草産の釜焚き塩を使って作る。「ソーセージに添えたり、納豆に入れたり、わさび代わりに醤油に溶いてお刺身を食べるなど、お好みで味わってください」。ひばり工房、道の駅阿蘇で発売している。
■問合せ:阿蘇さとう農園
TEL 090‐2858‐6905(代表・佐藤智香)

普段着こそ美しいものを

絣(かすり)の技法を用いた「染織」

熊本国際民藝館、倉敷民藝館の創設者である外村吉之介(とのむらきちのすけ)氏は、民藝運動の父と言われる柳宗悦(むねよし)氏の下で民藝の美を学び、後進の指導のため倉敷民藝館に研究所を開きました。「真弓工房」(熊本市南区田迎)を主宰する染織家・堀絹子さんは、23歳の時から1年間、その研究所で外村氏や柳宗悦氏の弟子である蟻川紘直(ありかわひろなお)氏から基礎を学び、日常生活の中で使う道具「民藝」の美しさと、良いものを見る目を養いました。その後、沖縄で人間国宝の宮平初子氏に琉球絣(かすり)を学び、そして岩手で羊毛の手紡ぎや木綿の手織りの技術を学んだのです。
堀さんは、絹糸、羊毛、木綿、麻を使い、生活の中で使うもの(着物、洋服、小物、タペストリー…)全般を作ります。多くの染織作品の中から、今回は春の織物を見せていただきました。絹糸を精練し、染料を集め、絣(かすり)の技法で糸を染めて機を織り、一つの作品が完成するまでに、多くの細やかな作業と工程を重ねます。
「普段使うもの、改まった席にも使えるもの、普段着としても使えるものを作っています。良いものは眺めるだけではなく使うこと。そのことによって本物の良さがよりわかるようになり、日常の暮らしも豊かになります」と堀さん。とことん惚れ込んだ美しい物を手に入れ、大切に手入れしながら、何十年も何代にもわたって大切に使い切る。堀さんの染織はそんな風に生きることの豊かと美しさを教えてくれます。

【写真(左・上)】
茶はカテキュー、白は南天、緑は藍と福木(ふくぎ)で染色した絹糸で織った、略礼装として使えるのしめ風段染着物「春のいざない」。落ち着いた色合いが堀さんのデザインと構成によって華やかな仕上がりに。
【写真(左・下)】
黄土はヤシャブシ、白は南天、藍で絹糸を染めた「藍香(あいか)」。この作品は2016年の国展で会友賞を受賞した。
【写真(右)】
「蒼(そら)と紅(べに)」。サボテンにつく虫から採取するコチニールは、鮮やかな赤や紫に変化する染料。蒼い空の下に、輝く満開の桃の花が咲いたような、心躍る作品。
染織家・堀絹子さん。「柄や素材を季節に合わせるなど着物には決まり事がありますが、私が織る着物は普段着としても、改まった席にも自由に着ていただけるものです」
【写真(左)】
絹糸を精練し、染料を集め、染色する。絣(かすり)の技法には、デザイン画に基いて糸を防染する部分、染める部分を分けて染め、のりを入れて乾かし、仮筬(おさ)し、巻き取り、機織り、綜絖(そうこう)通し、機筬(はたおさ)通し、織り付け、砧(きぬ)打ちなど、細やかな作業と多くの工程を要する。
【写真(右・上)】
工房に並んだ機(はた)。ここで教室が開かれ、10名の生徒さん(受講歴2年目から23年目の女性)が染織を制作している
【写真(右・下)】
男性のスーツなどを仕立てる麻の織物。
■問合せ:真弓工房
TEL096‐379‐3662

桜の頃に咲き揃う「椿」

天草・今堂家の春の庭

木に春と書く「椿」。天草市本町の今堂(こんどう)家の約1,000坪の庭には、9月半ばから5月半ばにかけて、200~300種の椿が時期をずらして咲きます。椿が最も多く咲き揃うのは、桜の開花が近い春彼岸(3月中旬)の頃だとか。(開花の時期は年によって変動があります)
今堂まさ子さんが庭に椿を植え始めたのはおよそ50年前。今は亡き御主人が肥後椿を鑑賞し「椿もいいねぇ」と、椿を集め始めたのがきっかけでした。当時は旧菊池郡西合志町に住んでいましたが、定年退職を前に「露地で白い椿を咲かせたいね」という主(あるじ)の希望でこの天草の地を選んだそうです。「1種1本、と集めて植えているうちに、いつの間にか増えていたという感じですね」と今堂さん。日本のヤブツバキ系・ユキツバキ系、唐椿系、日本の原種が海外に渡り品種改良したものなど、椿の種類も大きさも色もさまざまです。
椿だけでなく、庭には多くの季節の花が咲き、山菜、果実、黄葉、紅葉の風景が季節の移ろいを教えてくれます。「4月になるとワラビ、フキ、セリが育ち、6月には梅の実が生りますよ。花が咲いた後には”御礼肥え”といって、肥料をあげたり、剪定したりと手入れをします。また咲いてくれるように…と」
島内では、季節の風景や名所・旧跡を歩きながら郷土の味を楽しむ「天草ヘルスツーリズム」が実施されています。2月から4月末頃にかけて、今堂家はそのスポットの一つとなり、立ち寄ることもできます。

「訪ねてきてくださった方と話したり、花や木の情報交換ができるのも楽しみ」と今堂さん。
【写真(左)】
取材で伺った2月中旬にはちょうど河津桜が。これから寒緋桜、陽光、ヤマザクラ、ソメイヨシノ、関山の順に咲いていく。
【写真(右)】
葉の形が金魚の尾ひれに見えることから「金魚葉椿(きんぎょばつばき)」と呼ばれている。
たわわに実った島ミカンを「甘いよ。ほら、食べてみて」と差し出す今堂まさ子さん。「私はいやしんぼだから、実が生るものが楽しみなんですよ」。広い庭の斜面を素早く上り下りしながら手入れする今堂さんの姿から、82歳という年齢はとても想像できない。
2月中旬に今堂家の庭に咲いていた椿の数々。3月末の桜の時期に最も多くの椿が咲き揃う。
(開花の時期は年によって変動あり)
■問合せ:天草プリンスホテル(天草ヘルスツーリズム)
TEL 0969‐22‐5136
※2~4月には今堂家の庭も 「天草ヘルスツーリズム」のウォーキングの立ち寄りスポットになります。
ご希望の方はお問合せください。

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