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#031

暮らしを彩るモノとコト「心まで温まる、お茶の時間」

お茶は、ホッとひと息つくときの必需品ともいえるもの。おいしくいただく方法や、お茶の魅力についてご紹介します。

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03/19

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ちょっとひと息したいひととき、温かいお茶がそこにあるだけで、なんだか嬉しくなりませんか。お茶の時間というものは、どこか心までも温めてくれる、不思議な“ちから”があるようです。熊本は、県内各地でお茶が生産されている、お茶どころでもあります。
また、肥後古流に代表されるように、古くからお茶の文化が発展、継承され、身近な地域にその文化が残っています。暦の上では春とはいえ、まだまだ寒さが残るこの季節。今回の季節を楽しむ暮らしの提案は、お茶の魅力、楽しみ方についてご紹介します。お茶のことならこの人に聞きたい! という、くまもと手しごと研究所のキュレーターの方たちに、お話を伺ってきました。

熊本産のお茶の魅力ってなんですか?

それぞれの茶葉の持ち味を活かすブレンド。
畑と生産者の熱意が伝わるシングルオリジン。

2017年にシンガポールで開催された「にっぽんの宝物JAPAN グランプリ」。全国各地から選ばれた生産者が、商品開発や、PR方法など試行錯誤した中で生まれた商品力を評価するコンテストです。ナンバーワンに選ばれたのは、熊本県球磨郡の相良茶の生産者でした。日本最古のお茶といわれるこの相良茶の産地、人吉球磨地方をはじめ、県内各地でお茶が生産されています。一般的に売られているお茶は、お茶の卸問屋でそれぞれの生産地から集められた茶葉を選び、味、香りなどのバランスをみながらブレンド(合組)をして販売されています。その年の気候によって、また生産者や畑によって、出来や味わいが違うので、それぞれの特徴を活かしながら、相乗効果を狙い、茶師によってブレンドされるのです。
今回お話をうかがったのは、手しごと研究所のキュレーターであり、お茶の卸問屋、日本茶インストラクターの野村美晴さんです。「ブレンドについては、毎年毎年、微妙な違いに神経を研ぎ澄ませて行います。そのため、ブレンドのテイスティングは、午前中限定で行います。微妙な違いを感じ、それをもとに安定した商品へとブレンドするので、味覚が鋭い時間帯のみで行うのです。」と野村さん。

一方で、シングルオリジンと呼ばれるお茶の形態にも、近年注目が集まっています。このシングルオリジンは、単一農園で栽培された、単一品種でつくったお茶のこと。甘み、香り、渋みなど、それぞれの農園の特徴をダイレクトに感じ、個性豊かな風味を楽しむことができるので、特定の農園をご贔屓(ひいき)にするお茶のファンが増えています。ブレンドによる味や品質の安定はないものの、その年によって微妙に変化する味わいは、土地のことに思いを馳せるひとつのきっかけになり、味わいや香り以外の、お茶を楽しむひとつの要素にもなります。

【写真(右上・右下)】
玄米茶のブレンド。焙煎した玄米、炒った玄米などを組み合わせて、そのお店独自の商品としていく。
お茶屋さんの店頭に並ぶのは、卸問屋が独自にブレンドした商品。一定の品質を保つために、茶葉の出来によってブレンドを変えている。

種類が豊富な日本茶の世界。
九州の茶葉に特徴的な「玉緑茶」。

ひと言に日本茶といっても、茶葉の品種、製法、加工法などによって、味わいや種類はさまざまです。広く一般的に飲まれているのは「煎茶」といわれるもの。摘んですぐの茶葉を蒸すことで熱を加え、揉んで製造されます。煎茶よりも長い時間かけて茶葉を蒸すと、「深蒸し茶」と呼ばれるものになります。また、最近では珍しく、数が少なくなりましたが、熊本県内では蒸す工程を釜で炒る工程で熱処理を施す「釜炒り茶」がつくられています。そして、最も特徴的なのが、蒸したり、炒ったりする工程の後に、茶葉を伸ばさず、グリッと丸い形状にする「玉緑茶」。九州以外ではこの玉緑茶はつくられていないので、九州産のお茶の特徴といえます。この他にも、茶葉をさらに焙煎した「ほうじ茶」、摘んだ生茶葉を揉むことで発酵過程を加える「和紅茶」と、日本茶の世界は深く、広いのです。

「お茶の素晴らしさを、熊本地震をきっかけに改めて気づかされました。避難所への炊き出しで、提供する温かいお茶。その一杯で、張り詰めていた緊張が、心からホッとほぐされ、癒されました。改めてお茶の癒しを実感しました。」と野村さん。寒い日が続く頃は、急須で丁寧にいれたお茶がおいしいもの。それぞれのお茶の種類に合わせた、おいしいいれ方を野村さんに教えてもらいました。一年中、長く、楽しめるように試行錯誤され、今のような形になり伝承されてきた日本茶。温かい一杯のお茶がもたらす、ちょっとした幸福な時間を楽しみたいものです。

茶葉の種類。深蒸し茶(左上)、釜炒り茶(玉緑茶・右上)、ほうじ茶(左下)、和紅茶(右下)。

深蒸し茶:お茶をいれる水は、軟水の方がおいしいもの。可能ならば、そのお茶が育った地域の山水を汲んでいれるのがおすすめ。山水を使用する場合は、一度煮沸して使いましょう。熱々のお湯ではなく、いったん茶碗に沸いたお湯を入れ、少し冷ました上で、急須にいれるのがコツです。

温かいお茶をおいしくいれるには、急須が一番。できるだけカゴ式の網をいれるタイプではなく、急須の中を広く使えるものがおすすめ。美しい緑色が出るのが煎茶の特徴でもあります。

釜炒り茶(玉緑茶):深蒸し茶と同様に、ポットからのお湯を直接入れるのではなく、少し冷まして、ゆっくりいれます。お湯の温度としては、飲むときに70度くらいになるのがベストといわれています。

釜炒り茶の場合も、お湯を少し冷まして。湯さましが無い場合でも、茶碗にお湯を入れて冷ましても大丈夫です。釜炒り茶は、花のような香りが特徴で、うすい黄色になります。

ほうじ茶:ふわっと立ちこめる香りを楽しむお茶なので、熱々のお湯でいれます。茶葉をお湯の中でくるくると踊らせることで香りが出るので、急須の場合は中が広いものを。

和紅茶:ほうじ茶と同じように、熱々のお湯でいれます。急須でもおいしくできあがります。ポイントは、お湯の中で茶葉がくるくると踊るようにすることです。

ほうじ茶も紅茶も、熱々のお湯をそのままポットから。急須の中で茶葉を踊らせて淹れるのがポイント。
キュレーター:野村美晴さん
茶卸問屋に嫁ぎ、子育てをしながら茶小売店を開業。店長のかたわら日本茶インストラクターの資格を取得。そのほか、かんぶつマエストロ、豆腐マイスターなどの資格試験にチャレンジしている。
■お茶の野村園(きらら店)
熊本県宇城市松橋町きらら3-2-16
tel.0964-32-8121
営業時間 9:30〜19:00

お抹茶を家庭で、おいしく楽しむ方法は?

千利休のお手前を伝承している肥後古流。
作法に込められているのは、おもてなしの心。

日本のお茶のルーツは、仏教とともに中国から伝わったといわれています。中国から伝来当初は薬用として用いられ、その後寺社などの人だかりのする場所で茶を飲ませる「一服一銭」の門前茶売り、「闘茶」という賭け事などとして使われていたこともありました。日本独自のスタイルとして変化し、日本の茶の湯の文化・伝統として今日まで伝わっています。今のような、おもてなしの世界を追究する作法を確立したのが、「わび茶」の完成者である千利休です。その千利休の流儀を忠実に受け継ぎ伝えているのが、細川家の茶の湯として伝承されてきた「肥後古流」です。武家文化として継承されていた肥後古流は、幕末までは町人にはほとんど伝えられなかったといいます。

肥後古流は、武田家と小堀家が作法を受け継いでいます。今回は、くまもと手しごと研究所のキュレーターである、肥後古流 白水会の小堀俊夫さんと小堀美穂子さんにお話を伺いました。伝統ある作法を受け継いでいる方たちに「家庭でもできる、お抹茶の楽しみ方を教えてほしい」と尋ねるのは、少し緊張感がありましたが、「茶道の作法は、おもてなしの心から発したものです」とのひと言で、その緊張感がほどけました。「5月から10月の風炉(ふろ)と、11月から4月の炉(ろ)の作法がありますが、その違いはお客様を快適にもてなすために生まれたものばかりです。例えば、暑い時期にはお湯を沸かす火を、できるだけお客様から離すために風炉を用い、道具も涼しさを演出するものを使います。寒い時期には、お客様の近くの炉の炭火で暖をとってもらうという相手への思いやりが息づいています」と俊夫さん。もてなす亭主がお客様に対して、ホッとした時間を過ごしてもらいたいという心がその作法となり、伝承されているのです。形というものは、心を表現するひとつの手段であると知れば、家庭で楽しむ、お茶でもてなすことも、気軽に取り入れられそうです。

炉(左)と風炉(右)のお手前の違い。お湯を沸かすための火の位置が違うことがわかる。作法の手順は無駄がなく、凛とした美しさを感じる。

“見立て”という茶道の考え方を、
家庭で楽しむお茶の時間に取り入れてみる。

お抹茶の点て方は、流派によって様々ありますが、今回のテーマは家庭でお茶を楽しむ方法です。ヨガと食を組み合わせ、お茶を取り入れた暮らしを提案している美穂子さん。「現代の器でお抹茶を点ててみたり、洋菓子と合わせてプレートで提供したり、家庭ではいろんな方法でお茶を楽しんでいます。茶道には、籠や竹を花入れにしたり、雑器を茶道具として用いたり、本来は茶道具でないものを取り入れる“見立て”という考え方があります。その見立てにこそ、お茶を楽しむ精神があり、家庭で楽しむ場合にも取り入れることをおすすめします。」とのこと。例えば、冬の作法で使われる茶器は筒型で飲み口が厚みのあるものが使われますが、家庭ではごはん茶碗や、大きめのカフェオレボウルでも代用ができます。お気に入りの器で、一緒に過ごしたいと思う人たちと、ひと息できる時間を共有する。この気持ちこそが、お茶を楽しむためにとても大切なようです。

ただ、家庭でお茶を楽しむ場合でも、おいしく点てたいもの。そのためにいくつかおさえておきたい要素があります。まず第一は、使用する「茶筅(ちゃせん)」です。「近頃では、キャンプ用品にも野点用の茶筅があるほど、いろんなものが出ていますが、竹製の良いものを選ぶのがコツです。茶筅しだいで、お茶の味が変わります。」とアドバイスをいただきました。また、点てる前に、茶こしや目の細かいザルなどで、お抹茶をこす手間をかけます。「ちょっとした手間で、おいしさは格段に違います。お湯となじませ、しっかり溶かした後、茶筅で点てる時の手首の動きは縦で素早く。おいしく点てるための、ちょっとした要素をおさえれば、あとは自由においしい点て方を探してみてください」と美穂子さん。少しの時間と手間をかけてお茶を点て、ゆったりとした時間を楽しむ。お抹茶を楽しむためには、心の置き方が大切であることに気づかされました。

【写真(左)】
本来茶器として使われないものでも“見立て”として茶器に使うことも。組み合わせるお菓子も、洋菓子と合わせるなど、家庭ならではの楽しみ方で。
【写真(右)】
家庭でおいしく抹茶を点てるために、必要な道具。茶筅(ちゃせん)は、できるだけ竹製の良いものを。右端にあるのは抹茶をこす道具。無い場合は、目の細かいザルでも。

準備するもの
抹茶、お湯、茶筅、茶碗、スプーン、茶こし

茶碗に抹茶を適量(小さなスプーン山盛り程度)入れ、お湯を注ぐ。家庭であれば、ポットからそのまま入れても!
素早く、軽やかに点てるのがおいしくいただくコツ。最後は、できた泡がふわっとなるように。

点て方(参考)
○茶碗を温める。
○茶碗に抹茶を適量入れる。
○茶碗にお湯を注ぐ。飛び散らないように。
○茶筅でお茶がだまにならないようにお湯になじませ、しっかりと溶かす。
○お茶を点てる。手首は縦に動かし、素早く。
○泡だってきたら大きな泡が消えるように表面をやわらかくなでる。
○茶碗の中心からゆっくり茶筅を取り出す(真ん中の泡がふんわりと)。
○おいしくいただく。

キュレーター:小堀 俊夫さん
茶道 肥後古流白水会の会長。千利休の点前作法を変えずに現在に伝える肥後古流の一派、小堀流の13代。熊本の茶道についての講演活動などを行っている。
キュレーター:小堀 美穂子さん
ヨガや食などと茶道をコラボさせた「和こころ茶ヨガ」主宰。女性ならではの視点で伝統を心地良く体感できる空間を提供するために、日々奮闘中。

イベント情報

■茶×yoga @白川公園茶室

とき:3月20日(火)14:00〜 / 3月21日(祝)9:30〜/13:30〜
ところ:白川公園茶室
料金:3,500円

小堀美穂子さん主宰の「和こころ茶ヨガ」のイベント「茶×yoga」が、3月の2日間、開催されます。熊本市の白川公園茶室で、ヨガと茶道を組み合わせたものです。茶道も、ヨガも、初心者の方が気軽に参加できるイベントです。詳しくはメールでお問い合わせください。

問)wakokoroyoga@gmail.com 
担当:小堀美穂子さん


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