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#034

和紙工芸「山鹿灯籠」から生まれた、暮らし彩る新プロダクト

600年以上の歴史を誇る伝統の和紙工芸、「山鹿灯籠」。その技法から生まれ、現代人の暮らしをすてきに彩る新しいプロダクトの取り組みをご紹介します。

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毎年、8月15日・16日に山鹿市で開催される「山鹿灯籠まつり」。きらびやかな金(かな)灯籠を頭に乗せ、千人もの女性たちが幻想的な舞いを披露する千人灯籠踊りが有名なお祭りですが、この金灯籠をはじめ、大宮神社に奉納される奉納灯籠すべてが手漉き和紙と糊だけで作られています。木や竹、金属といった骨組みや部品を一切使わず、職人たちの高度な手仕事により生み出される山鹿灯籠。2017年には、その技術を生かした新しい作品も誕生し、話題を呼んでいます。今回は、若手灯籠師として活躍する中村潤弥さんの工房と、山鹿の手仕事の品を集めた「ヤマノテ」を訪ね、話題の新プロダクトのこと、そして伝統を継承する灯籠師としての思いなどをうかがってきました。

根っこにあるのは、作る楽しさ

600年超の伝統を受け継ぐ
若手灯籠師、中村潤弥さん。

山鹿灯籠まつりを間近に控えた7月の終わり。灯籠師の一人、中村潤弥さんの工房を訪ねました。中村さんは、現在9名いる現役灯籠師の中では一番の若手。見習いとして約8年の修業を経て、2017年に灯籠師としてデビューしました。「灯籠師の仕事は、第一に奉納灯籠をつくること」と話す中村さんは、山鹿灯籠まつりに向けて、今年2つの町から依頼を受け、座敷造りと、御所車の奉納灯籠の制作に取り組んでいます。「製図して、切って、糊付けする。その繰り返し。基本となる山鹿灯籠の作り方に合わせてやっていくので、作業自体は単純ですよ」と、さらりと話す中村さんですが、実際に見せていただいた作品は、想像したよりも大きく、この立体的で精巧に表現された作品を一人で作り上げるのは単純作業といえども根気がいる仕事。どれだけ大変かは容易に想像がつきます。さらに、緻密さ、表現力、技術力、集中力など多彩な能力も求められる世界なのだろうと、中村さんの作品を通して、伝統技術を受け継ぐことの難しさをひしひしと感じました。

豊前街道沿いにある山鹿灯籠師、中村潤弥さんの工房。
今年の山鹿灯籠まつりに奉納される「御所車」(写真左)と、「座敷造り」(写真右)。

中村さんがこの山鹿伝統の和紙工芸に興味を抱いたのは、中学生の頃。当時、総合学習の一環で職業体験したときに、「おもしろいなあ」と思ったのがきっかけだそう。ものづくりが好きだったこともあり、高校卒業後すぐに灯籠師の見習いとして弟子入り。はじめは職業にしたいという思いよりも、作ること自体が楽しく、そこにやりがいを感じるうちに仕事になっていったといいます。とはいえ、灯籠師の仕事のメインは、奉納灯籠づくり。自分の作品というより、地域や企業から依頼を受けて作る奉納の品であるため、おもしろいだけでは務まりません。「当然、中途半端なものは作れません。灯籠師としての責任感を以前にも増して感じるようになりました」と話します。山鹿灯籠まつりといえば、千人灯籠踊りが話題に上ることが多いですが、灯籠師たちが全身全霊で作った奉納灯籠は一見の価値あり。お祭り期間中は各町内で披露されたのち、16日22時ごろから町内ごとに奉納灯籠を神輿でかつぎ、大宮神社まで練り歩く「上がり灯籠」と呼ばれる儀式がおこなわれます。奉納後、神社の裏に一堂に集められる光景は、とても見事なのだとか。お祭りが終わると、大宮神社燈籠殿でその年の奉納灯籠が展示公開されるほか、歴代のものは山鹿灯籠民芸館に展示してあるので、山鹿訪問の際はぜひ見学に訪れてみてください。

【写真(左)】中村さんの道具箱。灯籠師が使うカッターやヘラなどの道具がきれいに整理整頓されている。
【写真(右)】山鹿灯籠に使われる部材は、紙製のうえ細かいものが多く、こうして種類ごとに分け保管されている。
灯籠師見習いの頃に趣味で作ったというスマホケース。山鹿灯籠と同じく、すべて紙製。驚くほど細かな手仕事にほれぼれとしてしまう。

中村さんたち灯籠師は、年間を通じて山鹿灯籠の制作をおこないますが、奉納灯籠の制作がその大半を占め、合間に贈答用の金灯籠や特注品、展示用の特殊品を制作しています。新しい商品も9人の灯籠師が手分けしておこないます。新プロジェクトでは、これまでにインテリアモビール「TouRou(トーロー)」と、アロマディフューザー「かぐわし」の2つの商品が誕生。今後も新しい商品を作っていく計画です。和紙の特性を生かし、現代人の暮らしに合うような発想とアイデアで人気を集めている新商品ですが、「いずれも、新しいことをしようとして生まれたものではありません。山鹿灯籠をどう残していくか、残すということは、灯籠師が山鹿灯籠で生活していくということ。安定的に収入を得るための仕組みをどう作るか、そういった発想から始まった山鹿灯籠振興会を中心としたプロジェクトです」と中村さん。これからの夢について質問すると、「山鹿灯籠を通して、自分の考えややりたいことを表現していきたい」と話してくれました。新プロジェクトでは、新商品の開発も担当しているということで、今後の展開にも期待が高まります。奉納灯籠という山鹿の和紙工芸の伝統をつないでいくために始まった新しいチャレンジ。きっと、多くの人々に灯籠師たちの手仕事の魅力が伝わっていくきっかけになるはずです。

アロマディフューザー「かぐわし」に使われる部材づくり。ヘラで和紙を曲げて、紙の小口(厚み)に糊を付けて接着する。糊しろはなく、灯籠師の熟練の技術が必要とされる作業。

山鹿灯籠の伝統を現代の暮らしにも

山鹿の灯籠師たちの
手仕事が生み出すインテリアプロダクト

山鹿灯籠民芸館がある豊前街道沿いを北へ進むと、灯籠師の中村潤弥さんの工房があります。その1階で中村さんの奥様、冨田京さんが店主を務めるのが、「ヤマノテ」というお店。こちらは、地元の手仕事のものを中心に、全国の作家さんのこだわりの品を取りそろえていて、今年の3月、現在の場所に工房とお店を移転して再スタートを切りました。山鹿出身の京さんは、学生の頃に地域学を学んでいたこともあり、地元に関係のある仕事をしたいと思っていたそうです。「山鹿の人に山鹿の良さを知ってもらいたい」、そんな思いで始めたお店。前述の山鹿灯籠振興会の取り組みで誕生したインテリアモビール「TouRou」と、アロマディフューザー「かぐわし」を看板商品として、すてきにディスプレイされています。ゆらゆらと揺れるモビールを見ているだけで、なんとも心地いい! 店内には、「かぐわし」のアロマの香りもさわやかに広がって、山鹿灯籠が暮らしのなかにすっと溶け込んでいる様子を感じることができました。

ご主人の中村潤弥さんは、燈籠師。奥さまの冨田京さんは、「ヤマノテ」の店主。二人三脚で山鹿の魅力を発信中。
「ヤマノテ」には、来民渋うちわなど山鹿の名品やおいしいものがずらりと並ぶ。

モビールのゆらめくモチーフや、アロマディフューザーの和紙の部分は、よくよく見ると金灯籠の先端にある「擬宝珠(ぎほうじゅ)」と呼ばれる部材が使われています。灯籠師たちの負担にならないように、まったく新しい形ではなく、山鹿灯籠の伝統にのっとり、色や形を再構築。和紙が持つ軽やかさは、ゆらゆらと揺れるモビールにぴったりで、飾る場所の光によってその陰影があたらしい表情を生み出します。一方、「かぐわし」は、和紙の吸水性を生かし、精油を吸い上げることで、暮らしのなかに上品な香りを届けてくれるアイテムです。いずれも新築祝いや誕生日、結婚祝いなど贈答用に人気を集めていて、従来の伝統的な山鹿灯籠の作品を手に取る機会のなかった人たちにもその魅力を伝える期待の商品です。うれしいことに、山鹿の人たちがこの商品をギフト用に購入し、県外の知り合いへ贈る機会も増えているそう。「山鹿灯籠が、和紙工芸であることを熊本の人でも知らない方は多いです。このヤマノテという場所を通じてその魅力を発信し、灯籠師さんが奉納灯籠をつくり続けていける環境づくりに貢献できたらうれしいです」、そう話してくれた京さん。山鹿を愛する人たちの熱意と、真摯な姿勢が未来へつながる大きな力となるはずです。「ヤマノテ」を訪れて、山鹿の手仕事の魅力に触れてみませんか。

インテリアモビール「TouRou」には、スタンドタイプ(写真左・4サイズ)と吊り下げタイプ(右・1サイズ)がある。和・洋のどちらの暮らしにも馴染むデザイン。各3色のカラーバリエーションがそろう。

山鹿灯籠の和紙工芸がアロマディフューザーになって登場。スイートオレンジ、ラベンダーなど華やかな香りの「あやめ」(写真左)と、ゼラニウム、柚子などの落ち着きある香りの「もえぎ」(右)の2種類がそろう。

■ヤマノテ
山鹿市山鹿1375
問)0968-41-8405

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