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#038

季節のなかの、家族のおきて ~島田家のお正月~

今日は何の日?

09/22

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【二十四節気】
【七十二候】

四季折々にある年中行事は、心新たに節目、節目を家族で迎えるためにある素敵な習慣や風習です。今回の特集は、そんなならわし、暮らし方を大事にされているあるご家族の、家族ならではの、節目の過ごし方、大切に受け継いでいる伝統や習慣を、ほんの少しだけ共有させていただきます。

美しい島田家のお正月

私が島田家にお嫁に来て、一番感動した事、それはお正月の美しさです
豪華な食材や御節が並ぶ食卓、華やかな室礼やお飾りがあるようなものではなくそこにあるのは、丁寧な日常の暮しの延長にある、美しく慎み深いお正月特別な儀式や作法がある訳ではなく、新しい年を、健やかに笑顔で過ごせる為の島田家の穏やかなお正月のルーティン。忙しく過ぎる日々の中で、つい省略してしまい、忘れかけていたお正月本来の意味を私に思い起こさせてくれています。そんな島田家のお正月を私の視点でご紹介していきます。
元旦の朝、9時半に本家に集まり、お仏壇へ手を合わせ、家族皆んなが揃ったらお昆布と梅が入った福茶を頂き始まります。そして家長による新年の挨拶に始まり、御節料理をいただきながら、お屠蘇を順にいただきます。


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慎み深くも凛としたお正月飾りが施された島田美術館の冠木門。

私が育った家は古くからの商家で、年末忙しいこともあり、おせちはホテルや料亭から購入した3段重ね、馬刺しにお造り、そしてステーキまでも出たりして、まさしくお盆とお正月がいっぺんに来たかのような感じのお料理。うちの実家のように、お正月だからと何かと奮発して、豪華にされている家も多いのではないでしょうか。しかしながら、島田のお正月を過ごすうちに、それはあまり意味がないようにも思えてきました。これらの高級食材は正月でなくても食べようと思えばいつでも食べられますが、御節料理に込められた意味や願いを確認しながら、縁起良く日持ちのする料理を正月の間、家族で食す。これが日本人ならではの贅沢なのかもしれません。

【写真(左)】年長者からお屠蘇を、まわします。
【写真(右)】手作りの御節料理。

島田の御節は基本全てが手作り、年末に家族で買い出しに出かけ、数日間かけて作ります田作、黒豆、数の子、紅白なます、たたきごぼう、出し巻き卵、辛子蓮根などです。そしてもちろんお雑煮も頂くのですが、それがまた、たまらなく美味しいのです。上品でシンプルなお雑煮のお出汁は体と心に染み渡るほどの旨味で、ついお代わりをしてしまうほど。これで心のお腹も十分に満たされてしまいます。

【写真(左)】熊本らしいすまし仕立てのお雑煮。
【写真(右)】一品ごとにお皿に盛られたお料理。

お料理は一品一品お皿に盛ってあり、この日にしかお目見えしない、代々受け継がれている器だったり、お気に入りの作家さんの器だったりと、お料理と器がそれはそれは美しくスタイリングされています 器にあった盛り付けや彩りや配置のバランスも心地よく無駄がありません。

室礼やお正月飾りに関してもシンプル。買ってきた華やかなものではなく、庭に咲いている季節の植物を上手く生けてあります。限りなく自然な形で。今年、床の間にさり気なく飾ってあった松笠、それも庭の松の下に落ちていたものですが、飾らない潔い感じが余計によく見えたり、私は島田に来てからというもの、物を足すより、引いていく引きの美学のかっこよさに魅了されているのです。

今年は庭の松の木の下に落ちていた松ぼっくりを飾りました。

そして食事も終盤に近づくと、子供達にとってのお楽しみ、お年玉の時間です。
生前、義父はぽち袋に、一人一人、その子に当てた句書き、子供達はそれを声に出して読み、父が解説をつけ、周りはそれにしっかり聞き入っていました。今年は何が書いてあるのかと楽しみでもあったし、初めて聞く言葉や表現、言い回しがとても勉強になって私にとっては知識の糧が増える良い時間で大好きでした。
捨てられずに取っておいた娘のポチ袋は、今では父との思い出のアルバムのようになっています。

そんな義父と一緒にお正月必ず行っていた、そしてこれからも続けていくであろう儀式を最後に紹介します。昼前に花岡山に登り、先の大戦で命を落としたお爺様をはじめ、フィリピンで帰らぬ人となった戦没者の方々に祈りを捧げます。正午ぴったりに慰霊碑の前で黙祷した後、フィリピンの方角に向き直りもう一度黙祷。祈りを捧げるというか、感謝の気持ちを伝えるといった方が私にとってはしっくりくるのかもしれません。穏やかで幸せな気持ちで家族と迎える新しい年は、無念にも戦地で命を落とした方々も同じように迎えたかった一年で、この皆様のおかけで平和に暮らせている私達。そんな事を考えながら頭を下げ、私自身もしっかり生きようと心の中で呟くのです。

ここまでが一連の島田家のお正月の過ごし方です。
年末から年始にかけて、何かとお祭り騒ぎのようなイベントが多い昨今、島田家の穏やかなお正月は一見地味に見えるかもしれませんが、そこには日本文化の伝統と継承が息づく美しいお正月なのです。


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