#006

山笑う、感謝と歓びの「お弁当」

水温み、霞たなびく頃。野山や水辺に「お弁当」を携えて、新しい季節の訪れに感謝し、共に春を迎える歓びを分かち合いませんか。

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肥後の伝承料理人が作る、春の熊本県産食材を使った「お花見弁当」

熊本市中央区新屋敷で完全予約制の古料理店「Kazoku」を営む大塚ひろみさん。かつて大塚さんは、11年間に渡り、代々細川家の筆頭家老を務めた有吉家の21代当主・有吉立生氏の夫人であるマツヱさんから、茶道・華道・礼法・料理の基本を学びました。その後、細川護熙氏が熊本県知事、首相を歴任した間、細川家の料理番として一家の食を担い、細川家を訪れる客人に料理の腕を奮ったのです。
大塚さんの料理哲学は「旬の新鮮な食材を使い、愛情を込めて丁寧に作ること。時代に流されない、自分に恥ずかしくない料理を作ること」。大塚さん自身も母親の愛情溢れる料理で育ち、幼い頃の季節の風景と共に美味しい味の記憶が残っていると言います。「子供の頃の春の記憶ですが、私が学校から帰ると母が新高菜のおにぎりを私の手にのせて、“菜の花畑の中で食べておいで”って言うんです。そのおにぎりの味と、一面の菜の花畑の風景を今でもよく覚えています。七夕の時季には里芋の大きな葉に溜まった露を集め、それで磨(す)った墨で短冊に願い事を書いたっけ…。」と、大塚さんは懐かしそうに笑います。
今回、大塚さんにお願いし、「熊本の春のお弁当」をテーマに、イカ、芋の芽、新ごぼう、ふき、太刀魚、菜の花など、春に旬を迎える熊本県産の食材で作った料理を、人吉木工「槐木象嵌蓋(えんじゅもくぞうがんふた)」の重箱(熊本県伝統工芸館所蔵)に詰めていただきました。「今回の料理の中で、山蕗(やまぶき)は下ごしらえなどに少し手間がかかりますが、その他は比較的簡単に作れるものばかりです。」と大塚さん。料理の中には大塚さんの母の思い出の味、新高菜のおにぎりもありました。
お花見や春の山に出かける時の一番のご馳走は、自然の風景。大塚さんは、桜や春の花や芽吹く新緑などの彩りを楽しむ時のお弁当には、主役を邪魔しないために、あえて華やかな色の食材は入れないと言います。また、「人と人が心を通わせるには、同じものを一緒に楽しく食べること。一緒に食べると美味しさも増します。」と大塚さん。
この春、親しい人やこれからもっと親しくなりたいと思う人を誘って春が萌える野山に出かけ、手作りのお弁当を一緒に味わいませんか。

【写真(左)】
お弁当のタイトルは「春の微笑み(ほほえみ)」。右上から左回りに「一の重」「二の重」「三の重」。
【写真(右)】
料理を作っていただいた大塚ひろみさん。幼い頃から暦や季節の美しい自然に親しんできたことが本物を見抜く目と舌を育てた。

※この日使った重箱は人吉木工「槐木象嵌蓋(えんじゅもくぞうがんふた)お弁当箱」(非売品)/協力:熊本県伝統工芸館
■「Kazoku」
所/熊本市中央区新屋敷1‐15‐3
問合せ/TEL.096‐311‐9888
■熊本県伝統工芸館
所/熊本市中央区千葉城町3-35
問合せ/TEL.096‐324‐4930

熊本県の伝統工芸品の「お弁当箱・篭」に見る“用の美”

良材に恵まれた熊本県では、人吉球磨の挽物(ひきもの)や箪笥(たんす)などの家具、そして熊本市南区川尻の桶・樽など、江戸時代から多くの木工品が作られてきました。現在は県内各地に新しい工房が増え、個性ある木工芸品が生み出されています。
また、豊富な竹資源に恵まれた熊本県では、古くから竹で農具や漁具が作られ、現在でも、八代市日奈久、水俣、宇城、天草などで竹製の魚篭、背負い篭、ざる、花器などが作られています。
今回はその中から、木製の「お弁当箱」と竹製の「お弁当篭」をご紹介します。
「木製のお弁当箱」は球磨郡球磨村の「そそぎ工房」代表である工芸作家・淋(そそぎ)正司さんが手掛ける「一勝地曲げ(いっしょうちまげ)」です。九州産の檜(ひのき)を曲げ、桜の樹の皮で留めて作る工芸の技術は400年の歴史を誇るものです。淋さんは弁当箱・重箱の他に蒸篭(せいろ)、花器、茶道具なども手掛けています。
もう一つは八代市日奈久の「竹製のお弁当篭」(製作者・桑原健次郎さん〈故〉)です。熊本県内各地では昔から“青物”といわれる生活用具を中心とした竹製品が作られてきました。特に八代市日奈久では昭和20年代までおよそ100軒が竹細工を専業としていました。炊いたごはんを入れる“めし篭(かご)”など日常で使うものから、お花見や祭、お祝いの場などで使われてきたハレの日の弁当篭など、生活の中で親しまれてきた工芸品が数多く伝承されています。
木や竹のお弁当箱・篭は外観の美しさだけでなく、軽さや通気性の良さなどの機能性、そして何より使うたびに色合いや味わいが増すという魅力があります。熊本が誇る工芸品の一つとして大切に残していきたいものです。

【写真(左)】
一勝地曲げの丸型の弁当箱。手前3,250円、奥3,900円。(「そそぎ工房」)
【写真(右)】
一勝地曲げお弁当箱。手前の四角平型は5,400円、奥の手提げ三段は39,000円。(「そそぎ工房」)

※角型の重箱(最下段に銘々皿が入ったもの)や、箸箱付きの重箱などいろいろなタイプものあり。
■そそぎ工房
問合せ/TEL.0966-32-1192
※価格は3月末までのものです。(4月以降は未定)
【写真】
八代市日奈久の竹のお弁当篭(製作者・桑原健次郎さん〈故〉/非売品)。現在は息子の哲次郎さんが技術を継承。弁当篭などはオーダー(応相談)で受け付けています。
■熊本県伝統工芸館
問合せ/TEL.096-324-4930

地域の絆を深め、一年の心の糧となる、勢井阿蘇神社 春の大祭
「奉納願成芝居」の“十人重箱弁当”

桜の花が舞い、鳥が歌う4月初旬、下益城郡美里町の勢井(ぜい)阿蘇神社では五穀豊穣と家内安全を願い、神様に芝居を奉納する春の大祭が行われます。(今年は4月5日[土]に開催)
およそ500年前から続くと言われる大祭「願成(がんじょう)」には、春に作物の豊作を願い、秋に実りを感謝する意味が込められています。
この地域では、毎年、15地区の人々が交代で年番(祭礼を取り仕切る人)を務め、神社の境内にある舞台を取り囲むように、竹で枠を組み、藁(わら)を編んで仕切りを作り、檜(ひのき)の葉で飾った桟敷席を作ります。以前はそこで歌舞伎や浄瑠璃などが行われていたそうですが、現在は旅芝居の一座を招き、大祭当日、神事の後に芝居や踊りの公演などを楽しみます。
そしてこの祭りに欠かせないのがお弁当。以前はこの地域のどの家庭でも「十人重箱弁当」の中におにぎり・おかず・酒の肴を詰めて祭りに出かけていました。しかし、時代を経て、今ではこの十人重箱弁当を使う姿を見かけることはほとんどなくなったのです。
この重箱弁当の文化が廃れていくのはあまりに寂しいと、美里町の井澤るり子さん(美里フットパス協会運営委員長/「くまもと手しごと研究所」宇城エリアキュレーター)は20年ほど前から祭りの日にこの重箱を使いお弁当作りと芝居見物を楽しめる『春の山野草弁当作りと農村舞台でのお芝居見物』の体験教室を開いています。当日、お煮しめ、白和え、酢の物、和え物、巻き寿司、そして近所で摘んだ山野草などを使った天ぷらなどを作り、それを持ってお芝居見物へ出かけるという内容です。
この日、この地域に住む人たちは神に願い、お腹いっぱい食べ、共に笑います。その時間が人々の絆を深め、これから1年元気に働くための心の糧となるのです。

【写真(左上)】
「山野草弁当作り」の内容は、体験したいことだけに自由に参加してOK。料理作りを見ているだけでもいい。
【写真(左下)】
美里町の掛け干し米のおにぎり、旬の山野草などを使った料理は何よりの御馳走。
【写真(右)】
右側が「十人重箱弁当」。漆塗りの重箱の中には10人分の重と、大きな重箱が3段入る。左は6人分の「六人重箱弁当」
【写真(上)】
願成芝居の桟敷席は、勢井阿蘇神社の境内の舞台を囲むように作られる。桟敷席は入札で場所が決められるとか。
【写真(下)】
舞台前の前の広場は「つぼ」と呼ばれ、誰でも入ることができる。
※写真提供:中島久宣さん、井澤るり子さん
■勢井阿蘇神社
下益城郡美里町大井早勢井
■「山野草弁当作りと勢井阿蘇神社農村舞台でお芝居見物」
4月5日(土)小雨決行
場所/美里町大井早勢井(井澤さん宅)・勢井阿蘇神社
時間(料理作りと芝居見物)/9:00~17:00(料理教室は都合のいい時間からご参加ください)
参加費/2,000円
問合せ・申し込み
http://www.facebook.com/ruriko.izawa
美里フットパス協会・井澤0964‐47‐0147(文化交流センターひびき内)