#013

春を想う花、「桃」と「桜」のお話

名残りの雪が降り、寒い日と暖かい日を繰り返しながら、やがて麗らかな春を迎えます。
春を待つ時期と、春の訪れの頃に咲く「花」にまつわる話をお届けします。

二十四節気では一年の始まり「立春」に入り、暦(こよみ)のうえでは春になりました。
名残りの雪が降り、寒い日と温かい日を繰り返す「三寒四温(さんかんしおん)」などを経て、やがて麗らかな春を迎えます。
その間、緑の若い芽吹きを見つけたり、春を告げる鳥のさえずりを聞きながら、春を想う冬の時期も楽しいもの。
今回は、春を待つ時期と春の訪れの頃に咲く「桃」と「桜」、その他の花にまつわる話をお届けします。

3月3日は「桃」の節句
女の子の健やかな成長を願う「上巳の節句」。
桃は昔から邪気を祓い、縁起の良い木とされています。

1年の間には5回の節句「五節句」があります。1月7日の人日(七草)の節句、3月3日の上巳(桃)の節句、5月5日の端午(菖蒲)の節句、7月7日の七夕(笹)の節句、9月9日の重陽(菊)の節句です。
古代から中国では奇数(陽)が重なる日は陰に転じやすい日とされ、その時期の植物の力を借りて邪気を祓う行事が行われていました。
3月3日の「上巳(じょうし)の節句」は「桃の節句」ともいいます。
中国では、桃は霊力が宿り邪気を祓う仙木・仙果であり、「百歳(ももとせ)」に通じる縁起の良い木とされてきました。3月上旬の巳の日の「上巳節」には桃の花を眺め、桃の花のお酒を飲み、桃の葉のお風呂に入ったといわれています。中国では現在もお祝い事には桃を象った「壽桃(しょうたお)/桃饅頭」を食べる風習があります。

また、古代中国では「上巳節」に水辺で邪気を祓う習慣がありました。それが平安時代に日本に伝わり、宮中行事として「曲水の宴」を行うようになり、紙・わら・草などで作った人形(ひとがた)に自分のけがれを移して流すようになりました(これが「流し雛」になったといわれています)。そして宮中や貴族の子供たちの間で行われていた紙人形遊び「ひいな遊び」(雛遊び)と結びつき、やがて江戸時代以降の「ひな祭り」に発展しました。

雛(ひな)祭りに欠かせない「菱餅(ひしもち)」は、上から桃色、白、緑色の3層に重なったお餅です。桃色(赤)は魔除け、白は子孫繁栄・長寿、緑は厄除け・健康などを意味し、願う色とされています。(菱餅は、黄色・赤色・橙色を加えた5色など、地域によって異なります)

【写真(上)】
4月上旬から中旬頃に開花する。
※画像は熊本大学薬学部附属薬用資源エコフロンティアセンターの矢原正治さんよりお借りしました。
【写真(左・下)】
雛祭りの料理として、「ちらし寿司」や「蛤(はまぐり)のお吸い物」などがある。ちらし寿司には、見通しがきく「蓮根」や長寿を願う「エビ」など、縁起の良い具を使う。蛤、車海老、蓮根は熊本県の特産品。お祝いの料理にも多く取り入れたいものだ。
【写真(右・下)】
中国では「上巳節」の時に「母子草(ははこぐさ/春の七草の一つ・ゴギョウのこと)」の餅を食べ、母子の健康を願った。それが日本に伝わり、「よもぎ餅(草餅)」に変化。江戸時代、子孫繁栄や長寿の力を持つといわれる白い菱の実を加えた「菱餅」が加わり2色になり、明治時代に山梔子(さんしし/くちなし)を入れた赤い餅が加わり3色になったといわれている。また、「ひなあられ」は、かつて春の野山や海辺にお雛様を持って出かけた時、ごちそうと共に持参したものといわれている。
球磨郡あさぎり町の茶畑に咲く、「天空の遠山桜」

須恵地区松尾集落の人々が守る、
遠山家の桜。

市房山の稜線が背景に美しく霞む、標高350mの須恵地区松尾集落の茶畑。
澄んだ青い空に、鳥たちが嬉しそうにさえずる声が響きます。
20アールほどの茶畑の一角に、気持ちよさそうに枝を広げる「遠山桜」。
無農薬栽培の茶畑の中で、のびのびと育つ桜は、高さ6m、広さ15mほどに成長しました。4月上旬から中旬にほっこりと笑うように咲き誇り、見頃の時期を迎えます。
この桜は、昭和61(1986)年に茶畑の持ち主である遠山家が、もともとあった山桜に八重桜を接ぎ木して植樹したもの。その年は息子の遠山好勝(よしかつ)さんが結婚した年でもあり、桜はその記念樹になりました。
この地に咲く桜の風景が評判を呼び、見物や撮影に訪れる人が増えたため、遠山さんと仲間たちは多くの人に桜を楽しんでもらおうと「天空に咲く遠山桜まつり」を始めました。
祭りを始めて今年でちょうど10年を迎えます。
「今年も元気に咲いてくれるかな。訪れる皆さんは楽しんでくださるかな」。
開花の時期を前に、遠山さんと仲間たちの胸はワクワクと膨らみます。

【「第10回天空に咲く遠山桜まつり」(主催:遠山桜まつり実行委員会)】

開催日:4月11日(土)、12日(日)

※桜の開花状況によって、18日(土)・19日(日)に開催が変更になる場合もあります。
※2日間は許可車両以外は通行止めになります。
(あさぎり町須恵文化ホールから無料シャトルバスが運行されますので、そちらをご利用ください)
※4月1日~30日の車両通行は一方通行になります。
※4月1日~30日は夜桜のライトアップが行われます。

問合せ:あさぎり町役場商工観光課(直通)TEL0966‐45‐7220

【写真(左・上)】
「中山間松尾集落」代表であり、桜の管理をしている遠山好勝さんと、春を待つ遠山桜。遠山さんは仕事のかたわら、語り部の一人として須恵小学校で地域のならわし・伝統・文化などを子供たちに伝えている。「あさぎり町には民宿や温泉施設もあります。夜桜をご覧になる時はあさぎり町に宿泊していただいて、名物、風景、温泉などもゆっくり楽しんでください」と遠山さん。(H27年1月中旬に撮影)
【写真(右・上)(下)】
桜まつりが開催される2日間は、遠山桜の近くで焼きまんじゅう、からいも餅、特産の「わらびの酢漬け」などの販売も行われる。地元の人が大切に採取した赤わらび、青わらびを一度塩漬けにしたものを、その後生姜の千切りとともに甘酢で漬けたもので、シャキシャキの食感がくせになる美味しさだ。

※わらびとわらびの酢漬けの画像は「くまもと手しごと研究所」人吉球磨エリア・キュレーターの福山修一さん(デザイン・木工&ハーブ「工人舎」代表)が撮影されたものです。
【写真(左・上)(右・上)(右・上中)(下)】
※画像は「くまもと手しごと研究所」人吉球磨エリア・キュレーターの福山修一さん(デザイン・木工&ハーブ「工人舎」代表)が撮影されたものです。(撮影日:H25年4月10日)
「熊本大学薬学部・薬用資源エコフロンティアセンター」センター長・矢原正治さんの梅・杏・桜・桃の写真とお話
春にむけて、梅・杏・桜・桃の順に開花。
気温差が大きくなると開花する「桜」は、秋に咲くことも。

旧細川藩の薬園だった「蕃滋園(ばんじえん)」の流れを汲む「熊本大学薬学部附属薬用資源エコフロンティアセンター」(熊本市中央区大江本町)。ここでは漢方薬の基礎研究や薬用植物の調査・研究などを行っています。およそ7,000㎡の標本園・樹木園の中で約1,000種の植物が管理されていて、一般の方も季節の木や花を楽しんだり、漢方・ハーブおよび薬用植物の勉強会に参加することができます。(事務局で入園受付が必要です)
この園のセンター長(准教授)を務める矢原正治さんを訪ねました。
「梅(1月下旬頃~)から始まり、杏(アンズ)(3月中旬頃~)、桜(3月中旬頃~)、桃(4月上旬~中旬)の順に開花します。日本で確認されている桜の品種は300種以上あります。桜は気温差が大きくなると開花しやすくなるため、秋などにも花を咲かせることがあります。また、1月下旬から2月上旬にかけての寒い時期に下に向いて花を咲かせる“ヒカンザクラ”などもありますよ」と矢原さん。
矢原さんは、園内に咲く季節の花や樹木、見学会で出かけた里山の山野草などの写真を撮り続け、身体を気遣う文章とともにメールマガジンなどで発信しています。その便りは新しい季節の訪れと、こよみと自然に寄り添って生きることの大切さを教えてくれます。

味噌の作り方
【写真(左・上)(左・中)】
1月下旬から2月上旬、早いものではお正月に花を咲かせる「梅」。白色を中心に、紅、淡紅色の一重・八重の花を咲かせる。
【写真(左・下)】
3月中旬頃から花を咲かせる「杏(アンズ)」
【写真(右・上)】
「熊本大学薬学部附属薬用資源エコフロンティアセンター」の6月の風景。
【写真(右・下)】
塩漬けにした桜の葉で包んだ早春の和菓子「桜餅」。写真のように道明寺粉で作った皮で餡(あん)を包んだものと、小麦粉などを使い焼いた生地でクレープのように餡を包んだものがある。もともと桜の葉は香りがしないが、塩漬けすることで細胞が破壊され、酵素が働くことで“クマリン”という成分が生成され、あのかぐわしい香りが生まれるのだとか。

印の画像は、「熊本大学薬学部附属薬用資源エコフロンティアセンター」の矢原正治さんよりお借りしました。

【熊本大学薬学部附属薬用資源エコフロンティアセンター】

所在地:熊本市中央区大江本町5-1
http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusoen/garden.html(別窓リンク)

【写真(左)】
「梅・桃・杏の種の中には、各々“梅仁(ばいにん)” “桃仁(とうにん)” “杏仁(きょうにん)”があり、梅仁・杏仁には咳止め、桃仁には月経不順を整えるなどの薬効があります。梅・杏・桜・桃は同じバラ科サクラ属で、青い実の時は毒素を持つのですが、赤く熟れるとそれが分解するという特徴があります」と矢原さん。また、桜は花が咲く前の樹皮を煎じて布を染色すると、美しい桜色に染まるとか。(画像は杏の種と中の「杏仁」)
【写真(右)】
「熊本大学薬学部附属薬用資源エコフロンティアセンター」センター長(准教授)の矢原正治さん。1月中旬に園内で実をつけていた柊(ヒイラギ)の木の前で。

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