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くまもと季節の旅食 県南の旅食
Vol.3

海から山へ! 秋の県南、グルメドライブ

高さ1000m級の九州中央山地の山々が連なる県南エリア。
リアス式の海岸線が美しい水俣・芦北地域は、魚介の宝庫であるだけでなく、
茶や柑橘類の産地としても知られています。
見事な紅葉に色づく県南エリアの景色と食を満喫してきました。

アシアカエビにモチウオ 旬魚でいっぱいの計石漁港

ひんやりと肌寒い朝。芦北町の計石(はかりいし)漁港を訪ねました。沖合に目をやると、その優雅な見た目から「海の貴婦人」とも呼ばれている「うたせ船」が真っ白い帆に風をはらませ、海面をなめらかに走っています。風の力で船を動かし、海底に張った網を引く伝統漁法は、明治初期から行われています。
漁協をのぞくと、夜明けとともに船を出す“ゴチ網漁”の水揚げがずらり。サゴシ(サワラの幼魚)にネリゴ(ブリの幼魚)、アジ、グチ、エソ、タチウオ、アカダチ、アシアカエビにモンゴウイカまでありました。「今が旬の魚介といえばモチウオでしょうかね。アシアカエビやモンゴウイカは、寒くなるにつれてもっと大きくなりますよ」とは、「みやもと鱗福」の宮本芳一さん。活魚や鮮魚の卸小売業を営む宮本さんのもとには、地元の料理人たちが仕入れに訪れます。
「ものの良かとは、どっちですか?」とやってきたのは、田中正一さん。明治12年創業の老舗宿「野坂屋旅館」の5代目です。バシャバシャと豪快な水しぶきを上げながら、生け簀から引き上げられたのは見事なコショウダイ。ものの1分ほどで神経締めを終えるともう一匹。鮮やかな手さばきについつい見とれてしまいます。アシアカエビにモンゴウイカ、モチウオと目利きは続き、あっという間に今日の仕入れは終了。漁師町のテンポの良さは、何度味わっても痛快です。
「今日は町外のお客様も多い宴会なので、地物がいいやろうと思ってですね。この辺りはタチウオが有名ですけど、今の時季は断然モチウオ。脂がのって上品で、塩焼きや煮付けにもってこいです。丸ごと揚げて甘酢漬けにしたり、油淋鶏風にしてもおいしかですよ」。
和食と中華に通じる田中さんの料理は多彩で、聞けば聞くほどお腹がすいてきます。後日の再訪を誓って、漁港を後にしました。

【写真(左)】
モンゴウイカを目利きする、野坂屋旅館の田中正一さん
【写真(右)】
みやもと鱗福の宮本芳一さん。見事な手さばきで神経締めしていました
銀色に輝くタチウオ。煮付けにしてもおいしいそう
【写真(左)】
モンゴウイカは寒くなるにつれ、どんどん大きくなっていきます
【写真(右)】
アカダチ(写真手前)とモチウオ(奥)
■みやもと鱗福
葦北郡芦北町佐敷301(本店)
葦北郡芦北町白岩261-4(支店)
tel. 0966-82-2231
※電話は両店共通です
※季節の地魚詰め合わせ直送なども可能
※宮本さんの目利きの魚は、「道の駅 芦北でこぽん」でも販売されています
■野坂屋旅館
葦北郡芦北町佐敷373-1-1
<宿泊>1泊2食つき6480円〜
※食事のみのご利用も昼夜ともに応相談
tel. 0966-82-2510
http://nozakaya.com/(別窓リンク)
■道の駅 芦北でこぽん
葦北郡芦北町佐敷443
tel. 0966-61-3020
営:9:00〜19:30
(12/31は〜18:00、1/2は11:00〜18:00)
休:1/1のみ
■芦北観光うたせ船
tel. 0966-82-3936(5日前までの要予約)
<12~3月の問い合わせ先>tel. 0966-82-2066(芦北漁業組合)
乗船料:1艇43,200円(1~12人、季節に応じたキャンペーンもあり)
所要時間:約3時間
集合場所:芦北町計石漁港

しずかな絶景が生む「みなまた和紅茶」。これぞまさにテロワール!

現在は空前の和紅茶ブームです。和紅茶とは、国産茶葉を使い日本国内で加工した紅茶の総称で、渋みが少なくおだやかな味わいのものが多いことから、和洋の食事と合わせやすいのも人気の理由です。
緑茶文化が根強い日本で紅茶の生産が始まったのは明治時代。海外における紅茶の需要の高さを知った明治政府が、外貨獲得のために紅茶の生産を奨励したのが始まりで、明治8年に熊本と大分に日本初の「紅茶伝習所」が設置されました。つまり、熊本は国産紅茶の発祥地のひとつでもあるのです。
その熊本のなかでも、水俣・芦北エリアは県産紅茶の70%のシェアを占める紅茶の産地です。環境と健康に配慮した製法でつくられる紅茶は、国内外のコンテストで受賞歴をもち、品質も折り紙つき。「みなまた和紅茶」として話題を集め、“九州紅茶四天王”という総称まで生まれたほどです。
芦北町告地区にある「お茶のカジハラ」は、九州紅茶四天王のひとり、梶原敏弘さんが営む製茶園です。せせらぐ小川の傍らに佇む梶原さんの製茶場をのぞくと、前日摘んだ茶葉がザルに広げてありました。
「緑茶は摘んだその日に製茶しますが、紅茶の場合、一晩かけて“萎凋(いちょう)”し、揉捻(じゅうねん)、そして発酵という工程が必要です。生の茶葉はほとんどが水分。いろんな製法がありますが、私は茶葉をカットせず、丸ごと萎凋させて芯水を抜くという台湾の茶師直伝の製法をとっています」と梶原さんは話します。数値で管理するのではなく、見た目や手触り、香りなど、茶葉の小さな変化を五感で感じ取るのが梶原さん流。温厚な表情から一転し、真剣な眼差しで茶葉を見つめる姿に、職人の風格を感じます。
同じエリアでつくられた和紅茶も、圃場の環境や栽培法、仕立て方によって味わいが大きく異なります。これも「みなまた和紅茶」のおもしろさといえるでしょう。

【写真(上)】
告地区へ向かう道中、杉木立の中に現れたシイタケのほだ場
【写真(下・左)】
梶原さんの自宅そばを流れる小川
【写真(下・右)】
紅茶や中国茶の品質を高めるため、台湾へ渡った梶原さん。以前は、数値管理をしていたそうですが、台湾の茶師に学んだ製法にシフトしてからは、紅茶や中国茶、緑茶の味わいも大きく変わったといいます。
【写真(左・上)】
揉捻の工程を少しだけ、体験させていただきました。はじめは軽めに茶葉をよじるようなイメージで、後半しっかりと揉み込むのが梶原さん流
【写真(左・下)】
柔らかくなるまで揉み込むと、次第に茶汁がにじみ始めます。この茶汁に含まれる酵素が酸素にふれることで、茶葉が発酵し、香りやうまみを育てるのだそう
【写真(右)】
製法はもちろん、茶葉の仕立て方や摘んだ時期によってもさまざまな味わいが生まれる「みなまた和紅茶」。一煎目・二煎目と、抽出のタイミングによっても異なる香りや甘みを楽しめます。
■お茶のカジハラ
葦北郡芦北町大字告844
tel.0966-84-0608
休:不定
http://www.kajihara-chachacha.com/(別窓リンク)

石工の里は紅葉シーズン。ショウガ畑でオカリナ演奏!?

五木・五家荘は紅葉シーズンも終盤。国道443号沿いの山々は赤や黄色に染まり、川面はまるで錦をまとったように艶やかな色を浮かべています。
石工の里としても知られる八代市東陽町の山あいの棚田では今、ショウガの収穫が最盛期を迎えていました。石積みの棚田にショウガの葉が茂る様子はまるで絵画のような美しさです。座連地区で生まれ育った黒木亮太さんは2010年に東京からUターンし、東陽まちづくり協議会に勤める傍ら、祖父や両親とともにショウガ生産を続けています。
「ショウガの栽培で大切なのは清冽な水と、水はけのいい土、そして光の加減です。日照時間が2時間ほどしかない山あいの棚田はショウガの栽培にうってつけなんです」。
ショウガの収穫はすべて手作業。大地に根を張ったショウガを割れないように引き抜くのは、ひと仕事です。それにしても、土から現れた一株の大きいこと!
「これは八郎生姜といって、東陽町で生まれた品種。一般的な生姜の5倍くらいになります。新ショウガは甘酢漬けやかき揚げ、炊き込みご飯にしてもおいしかですよ」。
そんな会話をしていると、どこからともなくやさしい音が聞こえてきました。振り返ると、母の厚子さんが自慢のオカリナを演奏中。まさかの展開に驚きましたが、ショウガの葉のこすれる音と川の音を伴奏にした「瀬戸の花嫁」は感動的で、思わず目頭が熱くなりました。演奏が終わり、照れ隠しに軽くおどける厚子さんに対し、亮太さんの冷静なツッコミが入ります。その様子はまるで親子漫才。笑いすぎて涙が出るというのも、なかなかありません。
仲良し親子がつくるショウガの美味しさを誰よりも早く味わいたくて、帰り道の直売所で蜂蜜を買いました。すり下ろした新ショウガに湯を注ぎ、蜂蜜をたっぷり加えた蜂蜜しょうが湯のキレと甘さが、疲れをリフレッシュしてくれます。一口飲むごとに、ショウガ畑の三重奏と親子漫才を思い出し、ほっこりとした気持ちになりました。

【写真(左)】
大正末期の種ショウガの栽培に始まり、約40年ほど前から、棚田を利用したショウガ栽培が盛んな八代市東陽町。今では県の40%のシェアを誇ります
【写真(右・上)】
ショウガは光に触れると光合成で緑色に変色して硬くなるため、風雨で削られた土をこまめにかけてあげるのも、ショウガ農家の大切な仕事のひとつ。光と冷えを防ぐため、根元には藁の布団をかぶせます
【写真(右・下)】
新ショウガの下についている茶色い部分は、種として植えた親ショウガ。何度か茹でこぼし、きんぴらにして食べるとおいしいそうです
【写真(左)】
「ショウガの仕事は大変だけど面白い」と話す、黒木亮太さん
【写真(右)】
母の厚子さんがおもむろに取り出したのはなんと、オカリナ!風に揺れるショウガの葉音とせせらぎを伴奏に、「瀬戸の花嫁」を奏でてくれました
【写真(左)】
大きく大地に根を張ったショウガを割れないように引き抜くのは、ひと仕事。土から浮かせ、1本1本手作業で引き抜きます
【写真(右)】
石積みの段々畑に、青々としたショウガの葉が茂る様子が美しいのです

漁師の“ひやがり”食べなっせ!

“ひやがり”とは、水俣・芦北地域の方言で「お昼ごはん」を意味する言葉。夫婦船が基本の「うたせ船」で見事な帆裁きを見せる浜のかあちゃんが切り盛りする店「えび庵」では、“漁師のひやがり”を味わえます。計石漁港に水揚げされた朝獲れ魚介の刺身や、アシアカエビが2匹ものった天丼、アシアカエビのエビフライ重といった丼もののほか、石えびのかき揚げやえびせんべいといった一品料理も。観光うたせ船の名物でもある船上の漁師飯「えび飯おにぎり」ももちろん健在!

【写真(左)】
巨大なアシアカエビの天ぷらが2本ものった天丼は、食べ応えも抜群です
【写真(右)】
エビと野菜が贅沢にのった「ちゃんぽん」も
【写真(左)】
「えび庵」の遠山菊江さん(写真右)とともに。ご主人とともにうたせ船にも乗る、現役漁師です
【写真(右)】
観光うたせ船の名物でもある、船上の漁師飯「えび飯」。出汁が効いていてペロリと何個も食べられそうなおいしさ
■えび庵(芦北町計石)
葦北郡芦北町計石2963-11
tel.0966-83-8888
営:11:00~15:00
休:水曜、年末年始

ずらりと並ぶおふくろ料理 地元の人も太鼓判!

大野温泉の一角にある食事処は、地元の人や温泉客で大賑わい。大野のお母さんたちがつくる田舎料理が人気の理由です。煮物や和え物、揚げ物など、芦北町の食材をたっぷり使った手料理はどれも、懐かしい味わいです。しかも、好きなものを好きなだけ食べられるバイキング形式で、大人ひとり880円(小学生580円、3歳以上280円)というリーズナブルさ!館内の直売所では地元の野菜や果物のほか、梶原さんのお茶も販売されています。

大矢野温泉センター
【写真(上・左)】
大野温泉の入り口にあった公衆電話。懐かしすぎて思わず見とれてしまいます
【写真(上・右)】
いずれも、芦北町の食材を使ったものばかり。次々に温かい料理が運ばれてきていました
【写真(下)】
ずらりと並ぶおふくろ料理に、思わず夢中です
■大野温泉センター
葦北郡芦北町天月1000
tel.0966-61-7300
営:温泉 10:00〜21:00(入館20:30) 食事処11:00〜14:30、17:00〜20:00
休:第3火曜(祝日の場合は翌日)

生姜の食事と温泉。心も体もぽっかぽか

八代市東陽町の朝採れ野菜をたっぷり味わうサラダバイキング付きのレストラン「さんふるる」。生姜カツに生姜キンピラ、生姜の漬物、佃煮など文字通りの「生姜づくし定食」や、生姜焼き定食のほか、さまざまな定食を味わえます。農家直送の野菜が並ぶ直売店ではもちろん、ショウガやショウガの加工品も販売。敷地内には源泉かけ流しの天然温泉も。河俣川のほとりにある露天風呂では、せせらぐ音を聞きながら、季節にうつろう山の風景を楽しめます。

東陽交流センター せせらぎ
【写真(左・上)】
「生姜づくし定食」1200円。メインはもちろん、佃煮やきんぴらなど文字通りの生姜づくし。おろし生姜までついています
【写真(左・下)】
定食に添えられていた生姜味噌が絶品でした
【写真(右)】
デザートに生姜ソフトクリームまで!すっきりしていて食べやすく、食べ終わった後にほんのり残る生姜の風味が爽やかです
■東陽交流センター せせらぎ
八代市東陽町南1051-1
tel. 0965-65-2112
・さんふるる(食事処)
11:00〜15:00(OS14:30)、17:00〜21:00(OS19:30)
※土日祝日は11:00〜21:00(OS20:00)
・菜摘館(直売所) 7:30〜18:00
・夢あかり(温泉) 10:00〜18:00

トマトの麻婆豆腐!?意外性と味わい深さで大人気

トマトといえば、夏の野菜というイメージですが、実は八代は冬トマト(11月~6月)の生産量日本一を誇る地域。農薬の使用をできるだけ控えて栽培される八代のトマトは味わいも濃厚です。「八代よかとこ物産館」内のレストランでは、八代産のトマトをたっぷり加えた変わり種のご当地麻婆が大人気!辛味と重厚な味わいが魅力の四川風麻婆豆腐に、トマトのすっきりとした酸味が加わると、こんなにも食が進むのか!?と驚くほどの一品です。期間限定メニューとして登場し、あまりの人気ぶりでレギュラーメニューに昇格したというあたりからも、そのうまさはお墨付き。物産コーナーには季節の農産物や加工品も多彩なので、ドライブ中の休憩にもうってつけです。

【写真(左・上)】
「八代トマト麻婆豆腐」。晩白柚ののったサラダや球磨川河口でとれた青のり入りのスープ付きセットで850円
【写真(左・下)】
野菜が並ぶ棚には、福田さん手描きのポップがずらり。「八代産の旬の野菜をおいしく食べてもらいたい」と、野菜の特徴だけでなく、食べ方の提案も添える工夫ぶりです
【写真(右)】
「麻婆豆腐ならではの辛味を保ちつつ、トマトの味わいを生かすため、甘みと酸味のバランスがちょうどいいトマトを選び、ソースを作るようにしています」と話す、ゼネラルマネージャーの福田周作さん
■八代よかとこ物産館
八代市上日置町4459-1
tel. 0965-32-3600
営:8:00~19:00
(レストランは11:00~15:00)
休:毎月第2木曜、1/1・1/2

「くまもと季節の旅食 県南編」春陽さん特製のおうちごはん

計石漁港で水揚げされた旬の魚介、朝霧がおいしい茶葉を育む芦北の里山、そして生姜の育つ石積みの棚田など、県南の晩秋~初冬は今年もおいしいものであふれています。この日出会った食材を、春陽さんはどんなおうちごはんに仕上げてくれるでしょうか。
シズやイボダイとも呼ばれ、この時期最も脂ののった「モチウオ」は、丸ごと揚げて野菜とともに南蛮漬けに。作り置きができるので、冬の急な来客時など、“もう一品”にぴったりです。東陽町の新ショウガは刻んできんぴらに、スライスしたものは芦北町の女島で栽培されたサトウキビでつくった「ばらん家」の黒糖とともにジンジャーシロップに仕立てられました。「ショウガに含まれるジンゲロールは、100度以下で加熱することでショウガオールという成分に変化します。ショウガ特有の香りや味わいを保ちつつ、深部体温を上げたり免疫力アップの作用も期待できるなど、冬の体調管理にもうれしい成分。和紅茶にスプーン1~2杯加えるだけで、おいしいショウガ紅茶も楽しめますよ」と、管理栄養士でもある春陽さんのアドバイスつき。おいしい食卓で、元気に冬を乗り切りたいものですね。

<詳しいレシピはこちら>
■芦北もちうおの南蛮漬け by くまもと食旅春陽食堂
https://cookpad.com/recipe/4795190(別窓リンク)
■水俣のばらん家の黒糖でジンジャーシロップ by くまもと食旅春陽食堂
https://cookpad.com/recipe/4807955(別窓リンク)
■八代東陽町の生姜のきんぴら by くまもと食旅春陽食堂
https://cookpad.com/recipe/4807920(別窓リンク)

文と写真:木下真弓(Coto-lab.)
レシピ作成:相藤春陽(春陽食堂)

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